(一) 今はまだ未の刻四つ(午後十四時)なのに太陽は分厚い雲に覆われ、薄暗い。 「こちらでございます」 彼女は巫女だろうか。突如として現れた彼女は明かりとして右手に提灯を手にしている。 色白で細身の女はにこりとも笑わずそう言うと、池の畔にある祠へと、ひとりの男(お)の子を案内(あない)した。 男の子の年は十六。 身長は百六十五センチと年頃の子供よりもやや低めだ。 華奢な身体には白装束で身を包んでいる。 長い睫毛に守られた大きな目は愛らしく、ふっくらとした唇。 漆黒の髪は肩まであり、やや長めで、外に向かって跳ね上がっている。そのためか、少女と見紛うほど可愛らしい。 彼の名は菊生(きくお)。 池の畔に住んでいる付喪神に、祟らないことを条件に、村から生け贄として差し出されることになった。 菊生は滅多なことでは中に入ることができない社の中――拝殿の中に案内されると、女の姿はいつの間にか消えていた。 畳十畳ほどのそこは一切の明かりがなく、薄暗い。 菊生以外、誰(たれ)の姿も見えない。 誰もいないのだろうか。 見回していると、突如、背後の扉が硬く閉ざされた。 おそらくは、付喪神がいるに違いない。 付喪神とは、この村では邪な人間の煩悩などからできた神で、この社はその神を鎮めるために作られたものだ。 普段は大人しかった付喪神だが、ある心ない村人が社を傷つけたせいで付喪神は怒り、その御身を鎮めるための打開策として生け贄を差し出すことになった。 それが、流行り病にかかり、両親を亡くした身よりのない菊生である。 どうせ生きていても仕方のない身の上ならばと、彼は自らこの役を買って出た。 もう、自分に逃げ道はない。 いくら覚悟してきたとはいえ、怖いものは怖い。 華奢な身体が震える。 するとふいに、草履さえも履いていない素足に滑りを帯びたひんやりとした感触の何かが絡みついた。 菊生の身体はあっという間に宙に浮く。 「ひ、あ!!」 驚いた菊生は声を上げた。 その声を合図に、薄暗い奥の方からずるずると、また別の触手が伸び、腕や足。胴体に絡みついた。 触手の太さは一寸弱(3.03ミリ)ほどだ。 足掻けば足掻くほどに、伸びてきた触手は菊生の身体にまとわりつく。 おかげで菊生の日焼け知らずな柔肌が、やがて剥き出しになっていく。 身体は仰向けのまま、両手は頭上に、膝は折り曲げられ、開脚した体位で宙づりにされてしまった。 あらわになるのは何も上半身だけではない。 付喪神に身を捧げるため禊(みそ)ぎをした後だったから、当然下着さえも身に着けていない下肢。 恥ずかしいあらゆる部分をあらわにされた菊生は恥辱を受ける。