◆ 煌々と照らされた明かりの下で、綾人は呼吸する時間さえも惜しむように、差し出された薄い唇に無我夢中でしゃぶりつき、細い両腕を相手の首に巻き付けた。 「綾人……」 男の色香を放つ、くぐもった低い声が綾人の名を呼ぶ。二人きりの一室に響き渡るその声に、綾人の感情は焼けるように燃え上がった。 綾人は、いくら運動をしてもまったく筋肉がつかない華奢な身体をベッドの上で披露し、彼を迎え入れる。 枕の上では繊細な色素の薄い、肩まであるやや長めの髪が散らばる。 陶器のような白い頬には赤みが差し、長い睫毛に縁取られたはしばみ色の目に溜まる涙は真珠のごとく、とても美しい。 その姿はとても扇情的(せんじょうてき)だ。綾人を組み敷く彼は、艶のある綾人に填(はま)っていく。 しかし、それは綾人と同じ性癖がある相手にこそ通用するもので、男の綾人は一般的に同性には受け入れられない。 綾人は女性を恋愛対象として見ることができない性癖を持っていた。 だから自分の想い人である人にこの想いを受け入れられないことを知っている。 綾人は四年もの間、ずっと想い続けている相手がいた。 綾人の恋の相手は親友で、しかもノンケだ。 親友の側にいるためには、この恋を隠し通さなければならない。この性癖で嫌われることを嫌う臆病な綾人は恋を告げることさえも許されない。 ――それはあまりにも辛く、悲しい。 恋とは非常なもので、自分の気持ちを理解すればするほど、その想いは募っていく。 綾人は恋しているその人の隣で自分の気持ちをひたすら押し隠し、日々を悶々と過ごしていた。 そんなある日、綾人は自分の気持ちを隠すはけ口となる場所を探すことにした。それが行きつけになっているバーだった。そのバーは大学から二駅の場所で、帰路に着くまでの間にある。人通りの少ないひっそりとした裏道の一角――『EN-COUNTER』という名の、まさにその名通りの出会いを目的としたバーだ。 そこには綾人と同じ性癖を持つ人間が多く集まっていて、彼らは一夜を共に過ごす相手を探し、集うのだ。 そして綾人もまた、『EN-COUNTER』に通い詰め、恋心を寄せている彼とどこかしら似た男性(ひと)を探し、毎夜こうしてぬくもりを求めていた。 一重の目や尖った顎。襟足まで届くか届かないかの黒い髪。それから、面倒くさそうに前髪をかき上げる仕草だったり、自分とは違う、がっしりとした肩幅をしていたり――と、一部分でも彼に似ている相手なら誰でもよかった。 どう足掻こうと、本命とは両想いになれないことを知っている綾人は、この方法でしか自分を慰める術を知らない。 綾人は恋心を押し殺すため、自分さえも偽り続けていた。 「綾人……」 好きな人の声に似たその男性の薄い唇が、手が――綾人の身体を蹂躙する。 「んっ、ああっ」 長い指でツンと尖った乳首をなぞられれば、赤の唇から甘いため息が放たれる。 綾人を組み敷く男は、綾人の艶のある声をもっと聞きたいと思ったのか、果実のように赤く尖っている綾人の乳首を執拗にこね回しはじめる。 男の指先が乳首を弄るそのたびに、華奢な腰がベッドの上で揺れる。 同時に、綾人の引き締まった後孔は縮まり、挿し込まれている男根が締めつけられる。 綾人の中で、男の陰茎はいっそう大きく膨らみを増した。 「んっ、ああっ、おおきいっ……」 より膨れる男根を感じて、綾人の腰がさらに大きく跳ね上がる。 自分を締めつける熱い窄まりに我慢できなくなった男は、綾人の乳首を弄るのを止めて華奢な腰をベッドから持ち上げた。 そうすると見えるのは、男根に挿し込まれて悦ぶ、反り上がった綾人の一物だ。それは亀頭から溢れ出た蜜で濡れそぼっていた。明るい照明に照らされ、妖しく輝いている。 こうして好きな人の面影を垣間見る男性に幾度となく身体を開き続けた結果がこれだ。 綾人はただ純粋に恋をしていた以前よりも自分の身体がすっかり淫らになったことを思い知る。 そのたびにふと過ぎるのは、恋心を秘めているその人への罪悪感だ。 自分は彼のことを邪な目で見てしまっている。 けれど、綾人がそうやって感傷に浸る時間を、男は与えない。綾人を貫いている雄が、引き締まった襞を擦り、何度も深い抽挿を繰り返した。 「っひ、あっ、あああっ!」 彼が動くたび、ベッドはギシギシと軋んだ音を奏で、綾人を快楽へと誘う。 焼けるような熱が、雄を咥えている窄まりから生まれ、全身を駆け巡る。 綾人は快楽だけを求めた。白い喉元を見せつけながら、弓なりに反れる。 達してしまいそうになる葛藤と戦うその姿はとても艶やかだ。 しかし、綾人は達することを望まない。男と交わった肌を離せば、後に残るのは虚しい現実だ。たとえ想像の世界だったとしても、彼と繋がることができたという悦びはすぐに消え去るのを知っていた。だからこそ、綾人はできる限り、陰茎を自分の中に挿れておきたかった。 「んっ……。お願い、もっと僕の名前を呼んで……」 快楽に溺れる綾人が喘ぎながら強請(ねだ)ると、薄い唇がひらく。 「綾人」 上から振ってくるのは大好きな人の声――。 「んっ、ああっ」 けれど、彼は綾人の好きな人ではない。彼は、綾人の好きな人に似た声を持つ夜の相手。 それでも綾人は、有りもしない想い人のぬくもりを探し続ける。 (――離さないで……) 綾人は、広い背中にしがみつき、相手の腰に両足を巻き付ける。 肌のぬくもりを感じながら、永遠に明けることがない夜を願って……。