◆ 僕、海里は人ごみが苦手。ついでに他人とコミュニケーションをとるのも苦手な典型的な引っ込み思案の高校二年生です。 そんな僕にも恋人ができました。 彼の名前は新。 大学生で優しくて親切で、その上、背も高くて、ものすごくカッコいい人です。 それで今、僕にはもったいない恋人、新さんの家に遊びに来てます。 彼は一人暮らしだそうで、週末はこうして僕を家に泊めてくれるのが日課になってます。 時間は午後十時になる少し前。 先にお風呂に入らせてもらった僕は、新さんがお風呂から上がってくるのを待っている。 そんな中、僕は新さんのベッドの上でひとり頭を抱えてうずくまっている。 新さんとはひとつのベッドで一緒に寝ているんだけれど、最近、ちょっと不安なことがある。 ――というのも、普通って、恋人同士は一夜を共にするのって、すごく特別なものでしょう? イチャイチャはもちろんだけど……その……セ、セックス……とか? 『イチャイチャ』は、ないことはない。 いや、というか――僕の場合、少し前まで夜に眠れなかったことがあったのだけれど、それで新さんにくっついて眠るっていうことが多くって……。 今もその名残で、くっついて寝ている。 だけどさ、お互い年頃の男子だよ? くっついて寝てると、なんか、もっとくっつきたいっていうか……。 ああっ、もうっ!! 僕ってほんとにじれったい!! つまりは、セックスしたいって思うでしょう? それが、どうも新さんにはないみたいなんだ。 僕だって無知じゃない。 男同士でもセックスできることくらいは知ってる。 他の人はイヤだけれど、新さんとならヘイキ――というか、むしろしたい。 そう思うのに、彼にはどうもそういう感情がないっていうか。 僕を腕の中に仕舞い込んで眠る。 終わり。 ……みたいな。 なんだか機械的な感じっていうのかな? それって、新さんにとって僕はいったい何なんだろう。 新さんにとって、僕はセックスの対象じゃないのかな。 それはきっと、僕に魅力がないから、なんだろうな……。 そりゃね、僕は引っ込み思案だし、これといって面白い話もできないよ? 睡眠不足でできていた、みすぼらしい目の下のクマはなくなったけれど、顔そのものの作りは変わらないし、僕は特別可愛いっていうわけでもない。 だからきっとそういう対象じゃないんだろうなって思ったりする。 だったらどうして、新さんは僕を恋人として側に置くんだろう。 彼はとてもカッコいい人だ。 きっと彼なら、恋人だって選り取りみどり。 選びたい放題だ。 だからといって、別れるのはイヤだけどさ……。 『別れる』 そう思っただけでも、僕の胸はキリキリ痛むし、心臓はまるごと握られるみたいに苦しい。 ――ううん、困っているのはそれだけじゃない。 僕、おかしいんだ。 おかしいっていうのは、つまり、新さんとセックスしたいっていう願望っていうの? そういうのがあるんだ。 どうしてそれがあるのがわかるのかっていうと……。 夢の中で、新さんに抱かれる夢を見るから――。 特に、新さんの家にこうして遊びにやって来た日に多いかな。 乳首に触られたりとか……僕自身を扱かれたりとか……。 そういう夢。 それって、僕がされたいって思ってるからだと思うんだ。 欲求不満みたいな? でもマズいのはそれだけじゃない。 新さんとひっついて寝ているわけでしょう? 新さんの隣でそんないやらしい夢を見ていてヘンな声を出してたらどうしようって思うんだ。 ――ううん。 それ以上に、そういう夢を見ているんだから、夢精とかもありえなくはないわけで、『目が覚めたらズボンの股下あたりが濡れてました』っていうのも、考えられない話じゃない。 今のところ、ズボンも着た時のように綺麗なままだから、夢精はしていないみたいだけれど……。 ――だから正直、夜が少し怖い。 新さんにいつ、僕が欲求不満だってバレるのだろうって考えれば、考えるほどに――……。 かといって、僕から新さんをセックスに誘うことなんてできない。 だって、もし、拒まれたら? つまらない僕とはセックスできないって言われたら? 僕はきっと、悲しくて死ぬ。 ああ、どうしよう。気がつけばもう寝る時間だ。 僕がそうこう考え事をしていると、新さんがお風呂から上がってきた。 新さんはやっぱりカッコいい。 肩まである少し長いしっとりと濡れた艶やかな茶色い髪。 パジャマ姿はすごく綺麗で、大人の男性を思わせる。 彼の姿を見ただけなのに、ドキンって胸が高鳴る。 さっきまでの悩みがものすごく小さなことに思えて、全部消し飛んでしまうんだ......。 すっかり見とれている僕を見た新さんは、にっこり微笑んで、「寝ようか」と言ってくる。 ――ああ、どうしよう。 もう眠る時間なんだ。 僕は今日もまた、そういう、いかがわしい夢を見るんだろうか。 そう思いながらも、コクンとうなずき、新さんと一緒にベッドに入った。 力強くてあたたかい腕に包まれると、思考はぜんぶ停止する。 あんなに拒んでいた眠気が、襲ってくるんだ……。 そうして大好きな新さんに包まれながら、いくらか時間が過ぎた。 少し眠りに入ったところで、僕の体はビクンって震えた。 だから、もうすっかり夢の中なんだって思った。 パジャマ越しから僕の体を撫でる、大きなその手――。 だけどいつの間にか裾を通って、直接肌に触れてくる。 ――ああ、またエッチな夢だ……。 そう思いながらも、僕は抵抗できず、じれったい感覚に身をゆだねてしまう。 指先が円を描くようにして僕の乳首を何度もなぞる。 おかげで僕の乳首はツンと尖ってきた。 でもそれだけじゃ足りない。 ――下にも触れて欲しい。 いけないと思いながらも、誘惑に勝てない僕は、もぞもぞと腰を動かした。 そうしたら、一方の乳首にあった指は僕が願ったとおり、ゆっくり下肢へと下りてきて――下着をくぐって僕自身に直接触れた。 大きな手が、僕自身を包み込み、先端をなぞる。 そうされると、いっそう僕自身は頭をもたげていく……。 もう一方の指はまだ乳首にあって、摘まんだりこね回したりを繰り返している。 ――これって……。 ものすごく気持ちいい。 ああ、でもコレにゆだねたらいけない。 近くにいる新さんにそういうハレンチな夢を見ているって知られてしまう。 僕は唇を引き結び、おかしな声を出すまいと必死にガマンする。 だけど僕が一生懸命我慢しているっていうのに、僕の夢って、ひどい。 僕自身を弄っている指が、いっそう強く感じる後ろに忍び込み、爪を立てて擦ってくる。 ――だめっ。 ヘンな声が出るっ!! それでもなんとか唇を引き結ぶ。 指は相変わらず僕自身の後ろをカリカリと擦っている――かと思ったら、手の中にすっぽりと包まれ、根本から先端へ。そして先端から根本へと、強弱をつけながら扱かれ続ける。 だけど、それでもなんとか耐えていた。 ……今日の夢は、いつもよりすごい。 それというのも、僕のズボンを下着ごと両足から引っこ抜かれ、僕の下半身が披露されてしまったんだ。 むき出しになってしまった僕の下半身。 僕はいったい夢の中の僕をどうしたいんだろう。 自分のことなのに、自分がしたいことがわからないなんて……。 ドキドキしながら疑問を抱いていると――。 ふいに生あたたかい何かが僕自身をすっぽりと包み込んだ。 僕の息が止まる。 一瞬、何が起きているのか、わからなかった。 それでもなんとか自分を制御していると、滑った何かが、反り上がっている僕の形をなぞるようにして、這い回った。 これって!! まさか咥えられてる!? そう思った時だった。 「あっ、ああっ!!」 とうとう声は、僕の口から飛び出してしまった。 しかもその声、本当に僕の声!? って思うくらい、ものすごく甘い声だった。 マズい! 新さんに聞かれたかもしれない!! 焦った僕は意識を戻し、閉じたまぶたを開けた。 すっかり夜の闇に慣れてしまった目を凝らし、下半身に向けると……。 ――えっ? なんで!? 僕は、自分の置かれている状況が、理解できなかった。 僕はてっきり今が夢の中で、新さんとセックスしたいっていう願望を抱いているって思ったんだ。 それなのに、セックスは夢でも願望でもなくって――。 つまり、僕の下半身を咥えている新さんが現実にいたんだ。 「あっ、うそっ!? 新さっ!!」 僕自身を咥えている新さんの姿を見た僕は、下腹部に熱を持つのがわかった。 僕の下半身は大きく震えて、溜まっていた欲望が外に向かって一気に弾ける。 「あっ、ああっ!!」 僕は新さんの口の中に勢いよく精を放ってしまったんだ。 同時に何かを飲み込む音がやけに大きく聞こえた。 ゴクンって……えっ!? ちょっと待って! まさか!! 新さん、飲んだの? 僕のを!? 「うそっ!! な、んで……新さ.……」 今のこの状況が信じられない。 はあはあ、と息を吸ったり吐いたりを繰り返し、なんとか息を整えようとしている僕は、ただ仰向けになって、力なく横たわる。 「汚いのに……」 まさか彼がそんなことをするなんて考えてもいなかった。 自分でもその部分を直接触れることをためらってしまうのに、新さんはあろうことか、僕のものを口に含むなんて!! 僕がショックを受けている最中、新さんは静かに口をひらいた。 「汚くはないよ。だってこれはかけがえのない君自身なんだから……」 「……っつぅうううっ!!」 恥ずかしい。 恥ずかしすぎるっ!! 顔なんて合わせられるわけがない!! 僕は両手で顔を隠して、ひたすら羞恥に耐える。 すると、新さんは顔を覆う僕の手をゆっくり握り、両耳の隣に固定された。 その仕草はものすごく自然にやってのけるものだから、僕も抵抗できないまま、大人しく彼に従ってしまった。 電気は豆電球が点いていて、薄暗いとはいえ、新さんから僕の顔がバッチリ見えるわけで……。 恥ずかしすぎて、目から涙がじんわり出てきた。 「なんの疑いもなく俺の隣で眠る無防備な君がとても可愛くて――どうにも我慢ができなかったんだ」 新さんは僕の寝込みを襲ったにも関わらず、悪びれもしないで僕の両方のまぶたにキスを落としてきた。 じゃあ、じゃあ、今まで新さんの隣で寝るたび、いかがわしい夢を見たのって欲求不満とかじゃなくって、実際にされていたから? そう思ったら、恥ずかしい気持ちは少しずつ消えて、代わりに驚きの方が膨らんでいった。 「僕、てっきり夢かと思ってた……。欲求不満なのかもって思って、新さんに気づかれたら気持ち悪いって思われるって必死にガマンしてたのに……」 ――どうしよう。寝込みを襲われたっていうのに、ショックじゃないなんて――。 それどころか、ものすごく嬉しいって感じるなんて――。 でも新さんだからそう思うんだ。 他の人に寝込みを襲われるとか、そんなの考えるのもイヤだ。 「海里を大切にしようと思ったんだが、君が側にいるどうしようもなくなって……。ごめんね、不安にさせていたんだね」 優しい新さんはそうやって泣き虫な僕をそっと包み込んでくれた。 次第に涙は引っ込んでいく……。 「節操のない奴だと思われるのが怖くてこういう行動に出なかったんだけれど……されてイヤじゃなかった?」 イヤなはずがない。だって、大好きな新さんなんだ。 抱きしめられたまま訊(き)かれて、僕はコクンとうなずいた。 「気持ち、よかったから……」 いつもならこんなこと、恥ずかしくて言えないけれど、今日は精まで飲まれてしまったからか、羞恥はピークに達していて、それ以上はもう何も思わなかった。 だから新さんには本当のことを言う。 「そう、気持ちよかったんだ……」 新さんは、僕の言葉を復唱すると、より強く抱きしめてくれた。 ――ああ、すごく幸せだ。 だけどね、新さん。 僕の疼きはまだ解消されていないよ? たしかにさっきイったけれど、だけどまだ足りないって思うんだ。 これっていったいなんだろう。 何が足りないって思うんだろう。 わからないけれど、たしかに足りないんだ。 「あ、あのっ! 新さん、僕っ!!」 コレの状況をなんて言ったらいいのかわからず、腰をモジモジ動かすと、新さんのズボン越しから硬いものを感じた。 ――その直後、新さんは切羽詰まったような声を出した。 僕を抱きしめてくれていた手が離れる。 僕は新さんによってパジャマの前ボタンをぜんぶ外され、脱がされた。 そして、新さんも着ているものすべてを脱ぎ捨てる。 高く反り上がった彼の猛りが僕の視界に映った。 これって、僕を見てそうなったってことだよね? 僕を欲しいって思ってくれているんだ。 そう思うと、胸がじんわりあたたかくなった。 「どうしよう、我慢できない。いい?」 大好きな人から抱いてもいいかって訊かれて、『イヤ』って言う奴はいないと思う。 それに、そもそも僕だって、こういうことがしたいと思っていたんだし……。 これから新さんに抱かれる。 そう思うと、未知な世界で怖いのに、それでも嬉しくて口元を緩めてしまう。 「嬉しい」 僕がそう言った直後――。 「海里!!」 僕の両足を思い切り広げると、股の部分、数箇所にキスを落としてきた。 「あっ、ああっ!!」 それだけで、僕自身がまた大きく膨れていく。 「指を入れるよ?」 「……ん」 コクコク。 言われて何度もうなずく僕。 思考はもうすでに止まっている。 新さんにすべてをゆだねてしまった。 指がお尻の奥に侵入して、圧迫感が伴うものの、僕自身が流した先走りが新さんの指に絡まっていたのか、水音を奏でながら、入っていった。 そうしていくらか中で動かされている間、新さんはむき出しになっている僕自身にキスの雨を降らせる。 そうすることで、中を弄られる不快感を消そうとしてくれているみたいだ。 おかげで僕自身はまた元気になってしまった。 僕の中にある指は少しずつ増えていっている。 圧迫感はあるものの、だけど痛みはなかった。 なんていうのかな、なんか……すごく……。 「あっ、ソコ、だめっ!!」 突然、中にある一箇所を擦られた僕の体は、ビクンと反応した。 おかげで考え事はすぐに中断されてしまう。 「ココ? 見つけた、海里のいいところ」 そう言うと、新さんはキスをやめて、執拗にそこばかりを擦ってくる。 「ひぃんっ、や、や、だめっ!! 新さん、新さんっ!!」 僕は押し寄せてくる快楽に抵抗して、必死に新さんの名前を呼ぶ。 意識が飛ばないよう、両手はシーツをぎゅっと握って――……。 「すごいね、海里の中に俺の指が三本も入ったよ? わかる?」 新さんはそう言うと、指をバラバラに動かして僕の中に入っていることを強調してきた。 「あっ、やっ、やぁっ!!」 どうしてそういうことを言うの? 新さんって、ものすごくエッチだ。 そんなことを言いそうにないのに!! 恥ずかしいっ!! 「すごい、感じてるんだ。海里の先走りが孔の中に入っていくよ。中を濡らしているような水音も聞こえる。すごく可愛い……」 新さんは僕の中を弄りながら、「わかる?」って訊いてくる。 「 やっ、新さっ!! も、それじゃなくって新さんがいいっ。欲しいのっ!!」 ――もう、限界だ。 指じゃなくって新さんが欲しい。 早くひとつになりたい。 僕はガマンできずに女の子みたいに喘ぎながら告げる。 そうしたら、新さんの指は僕の中から消えて、代わりに太くて熱いものが僕の孔に触れた。 「あっ!!」 「いい?」 「……ん」 コクン。うなずいた僕を見た新さんは、反り上がった自身でゆっくり襞をかき分け、中に入ってくる。 「あっ、あっ、ああっ!!」 僕はひたすらなんとも言えない圧迫感と、そして疼きに耐えた。 体ごと持っていかれないよう、シーツを掴んでいた両手は新さんのたくましい背中に巻きつける。 「海里、海里……」 新さんは愛おしそうに僕の名前を呼ぶ。 僕はその声を聞きながら、波に飲まれていく……。 やがて、僕の中に新さんがすべてが治まると、静かに息を吐いた。 「ん……ふぅ……」 指よりもずっと太いそれが僕を貫いているから、異物感がかなりある。 だけど、新さんは身動きもしないで、僕が慣れるまで待ってくれる。 まだ違和感はあるものの、次第に、少しずつ治まってきた。 「いいよ? 動いても……」 きっと新さんだってただ僕の中にいるだけじゃ苦しいと思ったから、僕は動いてもいいとそっと告げる。 そうしたら、すぐに抽挿がはじまった。 僕の体はまた、新しい波にさらわれる。 指で感じたある部分ごと新さん自身に擦られて、恐ろしいくらいの快楽が僕を襲う。 「うっ、ああっ、新さんっ!!」 声を出したその直後、僕は新さんのお腹に精を吐き出し、イってしまった。 新さんも僕を追いかけるようにして僕の中に熱い迸りを注ぎ、ほぼ同時に達した。 ベッドに崩れ落ちた新さんに抱きしめられ、僕は意識を手放す。 知らなかった。奥に注がれる熱い白濁が気持ちいいなんて……。 以前の僕だったら、こんなことは考えられない。 だけど、それもいいのかもしれない。大好きな人に抱かれて眠るのも、すごく気持ちいい。 「だいすき……」 深い眠りに入る前、今の気持ちをそっと告げれば――。 「俺も好きだよ、海里」 しっとりとした艶っぽい声が耳元から聞こえた。 **END**