*恋色童話集*




chapter:人魚姫~深海の底で








――広大な海の奥深く。

深海と呼ばれるその場所で、俺は他の生物たちとの接触を拒み、生き続ける。



俺は異形の者。

異形の存在。


皆から、忌み嫌われ続ける者――……。


大いなる神であるポセイドンが治めているこの国は、青々とした美しい海が広がり、人間たちはもとより、邪悪な意志を持つ者は手出しできない。


美しい海は彼の手によって治安に守られている。

少なくとも、俺がいるこの深海は別として、だが……。



「ねぇ、クライド、聞いて聞いて? 僕、16歳の誕生日を迎えたんだ!!」

深海と呼ばれるこの地域は、常に静寂が広がり、混沌とした闇に包まれている。

ここにはポセイドンの魔力は届かず、ゆえに、邪悪な心を持つ者がうろついている。

 
だが、永遠の沈黙も、『彼』がここへ来ると、すぐに消え去ってしまう。


海藻のように深い色をした緑の、艶やかな短い髪に、アクアマリンの大きな目。

それから虹色の鱗を持つ美しい尻尾。


彼はどこからどう見ても、深海に住むような異形の者ではない。

彼はれっきとした、ポセイドンの血筋を引く美しい人魚だ。


それなのに、なぜここへ来るのかというと……。

言うまでもない。
俺がいるからだ。


「……フラン、いい加減にしろ。ここへは来るなとそう言っているだろう!?」

「わあ、フランそうなの? お誕生日、おめでとうっ!!」





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