chapter:人魚姫~深海の底で 説教をする俺を無視して、彼は腰に手を当て、誕生日を祝ってくれとそう言う。 ……フランは、いつもこうだ。 とてつもないマイペースで、自分が決めたルールを破ることはない。 おかげで、彼の周囲では迷惑がかかりっぱなしだろう。 それは見なくともわかる。 ……はあ。 俺はひとつ、深いため息をついてから、口をひらいた。 「……おめでとう。それよりフラン、ここは危ないと何度も言っているだろう? またサメに襲われたらどうする?」 ――そう。 フランは3ヶ月前、この深海に迷い込み、サメに襲われていた。 俺は、危うく彼が殺されるところに出くわし、サメを撃退してやった。 それが、そもそもの発端だ。 それからというもの、なぜか俺はフランにつきまとわれ、滅多にやって来ない、この深海で人魚を頻繁に見ることとなった。 「危ないから来るな」 何度、そう言ったことか……。 だが、そうはいっても好奇心旺盛な彼はけっして首を縦に振らず、こうして毎日のようにここへやって来る。 「襲われなかったもん。大丈夫だもん。それに、僕に何かあったら、きっとクライドは助けてくれるもん……」 「フラン……。俺は汚れた者だ。お前のように美しくもない。皆も言っているだろう? 俺と会うなと……」 頬をふくらませて拗ねるその姿はとても愛らしい。 彼と同性の俺でもそう思う。 だからこそ、ここには来ない方がいい。 ここは善も悪もない恐ろしい場所だ。 可愛らしい容姿をしたフランは、ここの住人にとっては格好の餌食だ。 美しい人魚を狙う奴も少なくはないはずだ。 |