*恋色童話集*




chapter:人魚姫~深海の底で





人間が作った刃物で脅せるはずがない。


相手と距離を保ちつつ、ゆっくりと近づいていく……。


対する人間は、俺が纏(まと)う雰囲気が自分たちとどこか違うのを無意識的に感じ取っているのか、フランを掴んだまま、後退する。


「痛い目にあいたくなければ、フランを離せ」


「痛い目? 丸腰の奴が何言ってるんだ? こんないい金蔓、誰が簡単に手離すかよ」


だが、やはり人間は愚か者だ。

俺のことを何ひとつ知らない人間は、フランの顔の横に鋭く尖ったナイフの切っ先をちらつかせる。


それが、俺をどれほど怒らせるのかを知らない無知な人間は、勝ち誇った気分でいるらしい。

にやにやと薄気味悪い表情で俺を見ている。



「そうか、残念だ」

俺は右の手を胸の辺りまで持ち上げると、指をひとつ、鳴らした。


すると、背後にあった海水が帯状になり、ふたりの人間をすっぽりと包み込んだ。


水に覆われた人間ふたりは口から大きな泡を吹き出し、ただ足をばたつかせてもがいている。


彼らは俺たちとは違い、水中では息ができない。


奴らはやがて力尽きるだろう。


――いい気味だ。

フランを泣かせた罰だと知れ!




「やっ、ダメ!! クライド!! 殺したらポセイドンに怒られる!! クライドの立場がますます悪くなっちゃうっ!!」


フランはそう言うと、怒る俺に飛びかかり、意識を散漫にさせた。





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