◇ 「健太、寒いんだけど」 学校の登校中。カレンダーは二月に入り、一段と寒さが増す。 健太と晴れて恋人同士になって二ヶ月が経つ。 俺が少しでも、『寒い』と言うと、手を伸ばしてくれた健太は――……。 「いやや、自分で持ってきたらええやん」 冷たくなった。 というよりも、照れている。という方が正しいのかもしれない。 真っ赤に染まっている耳。顔も若干俯き加減だ。 これは、単に寒いからというわけではなさそうだ。 可愛いんだが、俺としては、以前のように健太の体温を感じたいわけで……。 「大切な恋人が風邪で倒れてもいいのか?」 少し拗ねたふうを装って、言ってみる。 「咲輝はそんなヤワやないやろ」 健太は相変わらずそっぽを向いて、そう言った。 目を合わせてもくれない。 いくらなんでも、これはあまりにも素っ気なさ過ぎだろう? ちょっとイラってしてきた。 「手くらい、今まで繋いでただろう?」 「…………」 返事がない。 無視するつもりかよ。 良い度胸だな。 俺の片想い歴をなめんじゃねぇぞっ!! こうなったら、健太が返事するまで付きまとってやる。 決意した俺は、前を歩く健太の横に並び、覗き込む。 顔は、耳同様やはり真っ赤だった。 小さな唇が引き結ばれている。 とても可愛らしい。 だけどな? 俺、健太と手を繋ぎたいんだよ。 俺は駄々っ子のように、健太の名を呼ぶ。 「さ〜む〜い〜」 「……………」 「俺、凍えそうっ!」 「うるさいなあっ!! もう、わかった! これでええんやろっ!」 とうとう折れた健太は、俺の手を掴んだ。 どこか偉そうに、言った健太の唇がツンと尖っている。 ……ああ、マジで勘弁して。 健太が可愛すぎてどうにかなりそうだ。 俺は身を乗り出し――可愛らしい唇を啄んだ。 「っ、咲輝っ!!」 赤い顔が、さらに赤くなる。 小さな唇が開閉を繰り返し、何やら意味不明な言葉を口にする。 ああ、やばいな〜。 可愛すぎて困る。 寒空の下、だけど心の中はあたたかい。 俺と健太の今年の冬は、もう少し続く。 *エンド*