◆ 「なあ、ずっとこうしててな?」 時刻は深夜。 あれからひとしきり泣いた後、マンションの住人たちの視線から逃れるべく俺と健太は俺の部屋で泣きじゃくり、俺はこうしてまた健太のベッドに潜り込む。 「ずっと……こうしているっていうのは……」 俺としては、せっかく健太と両想いになったんだ。今までと同じ、ただ抱きしめて眠るだけっていうのじゃなくて、当然先に進みたいとも思う。 それを言おうと口を開ければ――……。 「あかんのか!?」 向かい合う健太は、いつも勝気なつり上がったまゆ毛が下がった。 表情を伺えば、また泣きそうになっている。大きな目に涙がたまっていた。 今まで意地を張って強気に振舞っていたのか、本来の健太はどうにも泣き虫らしい。 「――いや、そうじゃなくてだな……」 なんと説明すればいいのだろうか。言い方に困っていると、俺の背中に回された腕に力が入った。 『離さないで』 まるでそう言っているようだ。 可愛らしい行動に、思わず口角が上がってしまった。 それを肯定だと受け取ったのだろう健太の表情は、泣き顔で唇をツンと突き立てて不機嫌になった。 突き出た桃色の唇が愛らしい。 俺はすかさず健太の唇を啄(ついば)んだ。 「んな、にゅわっ、にゃにしっ、咲輝っ!?」 健太は俺の背中に回した腕を離し、声にならない声を上げながら両手で唇を塞ぐ。 その仕草も可愛い。 「好きだよ、離れるなんてできるわけないだろう?」 「っんなっ!?」 どうやらキスの先はもう少しお預けになりそうだ。 ひっくり返った声と共に、真っ赤な顔が俺を見上げ、桃色の唇をパクパクと開閉させる。 まだ冬は序盤。 これから、もっとずっと寒い冬がやって来る。 だが、健太と一緒ならもう寒くもない。 俺の中にあるのは、可愛い健太だけ――……。 俺の心はあたたかい。 これからもずっと続く幸せに思いを馳せ、心は満ち足りていた。 *えんど*