chapter:★猿だって木から落ちるんだよ★ 書類に目を通す霧我の姿を見つめながら、紅葉は苦笑した。 ――有り得ない。 紅葉は普通の人と感覚が違うだけだ。 普通の人間なら、きっと同性でこの感情はおかしいって思うから。 だから、有り得ないんだよ。 ぼくは紅葉の言葉で図に乗りそうな気持ちになるのを止めようと口を閉じ、ゆっくり首を左右に振った。 そうすると、今度はものすごく胸が痛くなる。 「鈴? どうかしたのか?」 悲しい胸の内からなんとか逸(そ)らそうと、そのまま目を閉じ続けたぼくのすぐ後ろの頭上から、滑舌(かつぜつ)のいい、低い声が聞こえた。 この声は、顔をもなくてもわかる。 霧我だ。 ぼくは、ハッとして閉じた目をこじあけた。 すると、目の前には整った眉を眉間に寄せた彼の姿があった。 とても心配そうにしてくれている。 そんな霧我の表情を見たら、とても胸がきゅんってする。 ……霧我は卑怯だよ。 どれだけ、『好き』っていう気持ちを大きくさせれば気が済むの? 「なんでもないよ?」 ぼくはそう言って、霧我に、にっこりと笑みを返す。 すると、霧我の眉間の皺がますます深くなっていくんだ。 ぼくの言葉を疑ってるんだってわかる。 どうやらうまく笑えてなかったみたいだ。 失敗、失敗。 「室内あついね」 平静を装うことに失敗したぼくは、霧我の顔を横目に入れながら席を立って窓を開けた。 |