chapter:▽・w・▽つ【わんわんほりでぃ〜】 「イチくん!!」 もう、放っておいてほしい。 どうせこの想いは届かないんだから、ぼくのことなんて放って、バスケでもサッカーでもすればいい。 「うえぇっ」 泣きながら、ぼくはまっすぐ家を目指す。 まっすぐ……。 まっすぐ……。 ひたすらまっすぐ、前だけを目指して……。 「待って、あぶなっ!!」 ごっちいいいいんっ!! 「ふぐぅっ!!」 突然おでこに硬い何かが衝突し、激しい痛みが襲ってきた。 「うえええっ」 痛みに耐えられなくなったぼくは地べたにしゃがみ込み、うずくまった。 何に当たったのかと思ったら、目の前には、ぼくよりもずっとずっと背が高い、灰色の電柱がそびえ立っていた。 「……ああ、大丈夫? 電柱が目の前にあったんだよ。だから待ってって言ったんだけど……」 普段、いつも微笑む金色くんの声はとても悲しそうだ。 その声はすぐ真上から聞こえてきた。 「うええっ」 ……とっても痛い。 打ったおでこも。 好きな人に嫌われた心も――……。 どこもかしこも全部痛くて、ぼくの目からあふれた涙が滝みたいに流れ出した。 「ああ痛いね。僕が追いかけたからだね、ごめんね」 ぼくが勝手に電柱にぶつかって、金色くんを勝手に好きになっただけ……。 だから金色くんはぜんぜん悪くない。 それなのに、「ごめん」って謝る。 金色くんは悪くない。 悲しい気持ちが喉につっかえて何も言えない代わりに、ぼくはブンブン頭を振った。 「でもね、何か勘違いしてたみたいだったから、待って欲しかったんだ」 ……ふわり。 金色くんの手が伸びてきて、ぼくのおでこを撫でた。 勘違い? いったい何のことだろう? 意味がわからなくて、だけど顔を合わせる勇気がなくて、ひたすら地面を見続ける。 「これだから、イチくんから目が離せないんだ」 ――えっ? 「僕が慶を誘いにイチくんのクラスまで行ったの。あれ、僕が自分から言い出して呼びに来たんだよ? 知ってた? イチくんのクラスはグラウンドからよく見えるっていうこと……。 ――慶に怒られて泣きそうな顔をしてたから、放っておけなかった」 えっ? えっ? 「親しくなっていくうち、イチくんが可愛くて仕方がなくなって……どうしよう、君が好きなんだ」 ええええっ!? ぼくは泣くのも忘れて涙でいっぱいになっている目をパチパチとまばたきした。 金色くんの表情を知るため、顔を上げれば――……。 「ね、僕とそういうふうになるのはダメ?」 眉毛がハの字になって、悲しそうにしている金色くんを見るのは初めてだ。 とっても可愛いと思うのはいけないことかな? でもでも、頭の上にありもしない耳がふたつ見える。なんだか犬みたいだ。 犬って言っても小型犬とかじゃなくって……まるで――そう、ゴールデンレトリバーみたいなの。 ――ダメなんて……そんなことない。 だって、ぼく。 ぼくこそ金色くんとそうなりたいって願っていたから――……。 ブンブン。 金色くんの言葉に返事をしたくても、やっぱり何も言えなくて、もう一回首を振るぼく。 だけど、喉につまるのは悲しいからじゃない。 すごく嬉しいからだ。 「ぼくも……好き……です」 金色くんに、ボソッと告げてみる。 「ありがとう」 そう言って、ぼくを抱きしめてくれる金色くん。 「マフィン、君が作ってくれたなら食べられるよ。でも、イチくんを先に食べたいな」 手にしているマフィンを見つめていると、そっと耳打ちされた。 「ぅえっ!?」 金色くんの言葉に、もっと顔が真っ赤になる。 もう何も考えられなくなったぼくは、勢いよく電柱にぶつけたおでこのことも忘れて、ただ広い背中に腕を回した。 ▽・w・▽つ【わんわんほりでぃ〜】**END |