chapter:▽・w・▽つ【わんわんほりでぃ〜】 「小テスト、どうだった?」 いつもと変わらない、ニコニコ笑う金色くん。 「うん、今までの中で一番いい点数だったよ、ありがとう」 ペコッ。 ぼくは感謝の気持ちを込めてお辞儀をした。 「あの、これ」 そうして金色くんの前にズイっと出したのは、今日の家庭科で作ったマフィンふたつが入った透明のビニール袋。 「え、気を遣わなくてもいいのに」 金色くんは眉根を寄せて、「そんなつもりで教えたんじゃない」ってそう言う。 でも、それだとぼくの気持ちが治まらない。 ぼくは首をブンブン振って金色くんにマフィンを渡す。 金色くんは、「ありがとう」とそう言って、やっぱりニコリと笑ってくれる。 ……えへへ、嬉しいな。金色くんにマフィン、受け取ってもらえた。 受け取ってもらえたのが嬉しくて、ぼくもニッコリ笑った。 ちょうどその時だ。 ガラガラ……。 「おっ、いたいた、奏。バスケしようぜ。お前がいないと慶の一人勝ちになっちまうんだよ」 別のクラスの男子が教室に入って来た。 「あれ? お前、またマフィンもらったんか? あいっ変わらずモテるなぁ。けど、その女子たちもたいがいだよな。お前が甘いもの苦手なの知らないんだからよ」 男子は、面白可笑しそうにケタケタ笑った。 だけど今――ぼくは同じように笑えない。 だって、金色くん、甘いもの苦手って……。 「ご、ごめんなさい」 ぼくは慌てて、金色くんに渡したマフィンをもう一回ぶん取って教室を飛び出した。 ――最悪だ。 お礼にって思って一生懸命作ったものが、よりにもよって金色くんが苦手なものだったなんて。 これじゃあ、お礼じゃなくて嫌がらせだ。 いつもニコって笑う優しい金色くんに何かしたいって思ったのに……。 それさえも嫌がらせのひとつにしかならないなんて!! 委員長みたいにバスケットボールをしたいって言わない金色くん。 だけど、約束するっていうことは、それなりにしたかったんだと思う。 ぼくの勉強を見るために遊ぶのをやめて、日が暮れるまで勉強に付き合ってくれたのに、最後の最後でトドメを刺してしまったなんて……。 ……ズキズキ、ズキズキ。 痛む胸の理由は知っている。 金色くんに嫌われるからだ。 でも、嫌われたらどうしてイヤだって思うのだろう。 そもそも、ただ嫌いなものを渡しちゃっただけなのに、どうして嫌われるって思うんだろう……。 考えていくと、思い当たるのはただひとつ。 ああ、ぼくは……ぼくは、いつの間にか金色くんを、同性としてじゃなくて異性として見ていたんだ……。 金色くんのことを、好きになってしまったんだ。 嫌われたかもしれないのに、けっしてあってはならない恋心に気がつくなんて最悪だ。 「さいあく……」 ぼくはマフィンだけを手にしたまま、学校の正門を抜け、家までの距離をまっすぐまっすぐ走った。 「イチくん、待って!!」 一生懸命走っているぼくの後ろから追いかけてくるのは金色くん。 金色くんの嫌いなものを渡してしまったぼく。 『待って』って言われて待てるわけがない。 ぼくは何も言わず、そのまま、まっすぐ走った。 |