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そう、きっと彼女には当然の事なのだ。

敵地に忍び込んでいる最中に、別の誰かを心配する事も。

返って来るのが指示だけでも、案ずる言葉を送るのを止めない事も。

本当に、輝夜らしい。

「全く、色気の欠片も無い文だな」

しかし、たまには労いの言葉を掛けてやるのも悪くはないか。

飛龍はゆっくりと筆を取り上げた。

少し考えてから、文字を綴り出す。

『輝夜、息災か。中々良く働いてくれている事を感謝する。…………』

離れているから、こんなやり取りも出来るなら。

いつか会える日を待てるなら。

自分ではまだ気付かない寂しさの中にも、ささやかな歓びを見付けられるだろう。

遠く離れた帝と姫の間で交わされる報告書と指示書と共に。

お互いに宛てた文が送られるようになったのは、この時からだった。





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