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勇が見返した瞳は、優しく微笑んでいた。

「私は、勇が生まれてこの世に生きて……私と出会ってくれた事に感謝する。有り難う」

目を見張った勇は、やがて息を吐いて呟いた。

「……そうか。俺も、感謝しないとな」

「え?」

「いや、とにかく、やってみる気になったよ」

そう言った勇の横顔を、ひかりははっとしたように見詰めた。

「じゃあ、中に入るか」

部屋へと戻って閉ざした窓の外では、少しずつ雨が弱まり始めている。

人は一人で生きて行く事も出来るだろう。

けれど、心が寂しい時もきっとあるから。

人の温もりを、暖かさを求めずにいられない時もあるから。

それが側に在るなら。

惜しみ無く与えてくれる人に出会えたなら。

その胸の暖かさは、前を見詰める力になる。

微かでも、ささやかでも、確かな力になる。





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