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すぐに家に帰る気にはなれず、ひかりはただ足を動かしていた。

焦っても駄目だと分かっている。

でも……でも。

『こんな俺が……』

幸福になって。

どうか心から笑える日が。

その時不意に何かにぶつかり、ひかりは我に返って立ち止まった。

「あっ、ごめんね。ぼーっとしてて」

ぶつかってしまったらしい幼い少女に、慌てて声を掛ける。

少女は顔を上げてにっこり笑った。

「うん、大丈夫。有り難う、お姉ちゃん」

そう言った少女を、ひかりは思わず見詰めた。

今朝、洗面所の鏡に映った自分の姿と目の前の少女が重なる。

『これから色々大変だと思うけど……』

不意に頭の中に響いた声に導かれるように、少女の頭に手を置く。

「これから……これから色々大変だと思うけど、頑張ってね」

少女は不思議そうに首を傾げたが、すぐに笑顔に戻った。

「うん!ばいばい、お姉ちゃん」

駆け去って行く少女に手を振り、ひかりは大きく息を吐き出した。

『頑張ってね』

頭の中に確かに響いた、あの声は。

「……っ」

思わず額に手を添える。

心を埋め尽くすような雨の音がする。

体中に、重く響く。

それに押し潰されるように、アスファルトに膝をつく。

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