14
ひかりは泣きながら笑った。
「嬉しくて、泣いてるの」
「そ、そうなのか?」
「うん」
頷いても、勇は困ったような顔をしていた。
それを見ていたら、何だかおかしくて暖かな気持ちになった。
ひかりは勇の腕を取って言った。
「有り難う。凄く嬉しい」
誰も自分を知らなくて、自分も自分を知らなくて。
でも誰かが自分を覚えていてくれるなら。
居場所になってくれるなら。
それは生きている事の証だ。
強くなれる力だ。
「ああそうかよ。そりゃ良かったな」
勇は素っ気無く言い、さっさと先に進む。
ひかりも隣を歩きながら見上げる。
「そういえば。やっと私の名前、覚えてくれたね」
「何の話だ?」
「もう、さっき言ってたじゃない!」
「そうだったか?」
ひかりが拳を振り回して攻撃して来たのを、鞄でガードする。
「どうして、そう変なところでひねくれてるの?」
「全く、うるさい奴だな」
勇は息をつき、鞄を肩に掛け直した。
「ほら、さっさと帰るぞ。夕村ひかり」
ひかりは驚いたように勇を見詰めたが、すぐに嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「フルネームじゃなくて、ひかりで良いのに」
「…………」
勇の反応に構わず、腕を掴んで続ける。
「ね。私、今夜は勇の肉じゃがが食べたいな」
「別に良いが」
「ほんと?そうと決まったら、早く材料を買いに行こ!」
引っ張られるままに足を速める。
目に映った夕焼けは赤く眩しく、道路には二つの影が長く伸びていた。
- 70 -
[*前] | [次#]
しおりを挟む
ページ:
Reservoir Amulet