02


今でも、ふとした瞬間に蘇る事がある。

肉を刃で貫いた、あの感触。

恨みも憎悪も飲み込む程の、親しい者を象ったモノを手に掛けた事実。

相手が何であれ、この手で殺した。

その、決して消える事の無い刻印。

自分の心の何処かに、冷えた檻が出来た感覚。

もう後戻りは出来ない、取り返しはつかないと思い知った時。

何が起こっているか起こったのか起こしたのか。

まだ完全には理解出来ないままに。

どろりと視界が歪んだ、あの忌まわしい記憶。

ああ、あれが悪い夢だったら良かったのに。

「悠也ー?立ったまま寝てんのか?」

声をかけられてはっと顔を上げると、隣の部屋から燎が出て来るところだった。

燎と悠也の二人は、一階の隣同士の部屋に住んでいる。

「うん……。今、目が覚めた」

どうして、ドアを開けた瞬間にあんな事を思い出したのだろう。

空気がざわめいて、落ち着かないからだろうか。

昨夜、至聖とその兄の存在を聞いたばかりだからだろうか。

侵蝕の恐怖を、絶望を忘れさせないとするかのように。

そして、どんなモノであれ生を奪った事実を。

その重みを、刻印として。





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