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兄の最後の言葉に対し、至聖が何を返したのか。

真宵には聞き取れた。

泣き出すのを堪えているような、絞り出すような微かな声だったけれど。

それでも確かに聞き取れた。

「……俺は貴方のこと、本当はそんなに嫌いじゃなかったよ」

込み上げる様々な感情を押し殺すような声が、静かに告げる。

「有り難う、兄さん」

兄の存在を認めた彼が、堪え切れず涙をこぼしたと、背を向けていても分かった。

だから真宵が振り向かないように。

後ろから、縋るように抱き締めて来たのだと。

その熱と重みに、自分でも戸惑う程に救われて。

振り向く事など出来ずに、腕の中で目を閉じる。

胸に宿った痛みを、黙ったまま受け止めて。

分け合える誰かがいるというのは、何と恵まれているのだろう。

だから、大丈夫だ。

残された者達は、それぞれの道を生きて行けるから。

残して逝く存在に。

その確かに生きていた魂に、どうか安らぎを。





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