02


いつもの穏やかな微笑みと、こちらを気遣う言葉を残して。

彼が出て行ったドアにもたれ、自分の左手首に触れる。

少し前まで、そこには冷たく固い手錠があった。

疑念を晴らす為に掛けた物で、無事に晴れて良かったと思うけれど。

ずっと繋がれていたからか、そこに何も無いのがどうしてか。

どうしてか、寂しく思える。

すぐ隣の部屋のドアが開き、やがて閉ざす音がする。

『俺は、ちゃんと分かってるから。だからもう、無理しなくていいんだ』

先程の言葉を思い出すと、胸が激しく締め付けられる。

あんなに優しい人を、これまでどんなに傷付けて来ただろう。

ただ知られたくない一心で、踏み込まれたくない一心で。

彼に対し、ひどい言動をし続けた。

けれども、それさえも全て分かった上で。

優しく笑ってくれる彼は、たった一人だと確信出来る。

本人がどう思い、何を考えていようと。

あの優しさは、尊いものだと。





- 96 -






[*前] | [次#]

しおりを挟む


ページ:



Reservoir Amulet