夢の終わり.02
あの微笑みは夢か幻か、それとも。
近づく終わりを警告するように、激しく足下が揺れる。
危険を察知した都市庁の職員は、既に避難を始めている。
今頃は居住エリアでも、住人が都市外へ避難をしているだろう。
そうするのが賢明だ。
もうこの都市は、立て直すのが不可能なレベルにまで来ているから。
都市庁によるアナウンスは逃げる必要は無いと繰り返しているが、本能は危険を告げている。
そんな混乱の中、シズマは一人歩いていた。
静まり返った重い空気の漂う部屋の前に来ると、軽く息を吐いて髪を掻き上げる。
もう眠っている筈だ、深く。
ドアの前に立つ見張りに告げる。
「避難命令が出た。直ちに都市外へ脱出しろ」
「は、しかし……」
「今は指揮系統が混乱しているから、俺が直接伝えに来たんだ。命が惜しければ早く逃げろ。此処はもう長くは保たない」
その口調に本気を感じ取ったのか、見張りは頭を下げて足早に立ち去った。
それを見届けてから、ドアを開けて中へと入る。
そこではマイヤが、何も知らないような顔で寝息を立てていた。
起こさないように静かに膝をつき、そっと髪に触れる。
「……充分効いてるみたいだな」
微笑んで、低く呟くように言う。
「お前は俺を恨むか?そうしてくれると有り難いんだが」
儚い願いだ。
身勝手な願いだ。
恨みや憎しみなど、彼女には何より似合わないのに。
そっとマイヤの前髪を払い、その額に唇をつける。
「お前が目を覚ます頃、きっと全ては終わってるさ。……終わらせてみせる」
この手で必ず。
だから、だから今はどうか。
「優しい夢を見て、眠っていてくれ」
彼女が自分に見せてくれた。
暖かく優しい夢が、どうか。
哀しみを包んで、溶かして。
一時でいい、安らぎとなるなら。
彼女に降り注いで。
惜しみなく、溢れる程。
優しい夢を見せて。
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