記憶の海.03


四年前の、あの日の夜。

当時、まだ都市庁の研究員の一人として働いていた頃。

誰もいない展望台で、一人海を眺めていた。

誰もいないと思っていたから、無防備になっていたのかもしれない。

「……寂しいんですか?」

不意に投げ掛けられた質問に、はっとして振り向く。

そこには、少女が一人立っていた。

月明かりに照らされて、その少女が大きな瞳に涙を溜めているのがはっきりと分かった。

白い頬に流れた涙を拭おうともせず、少女は近付いて上着を掴んだ。

「貴方が寂しいなら、私が代わりに泣きます。だから早まらないで下さい」

何やら誤解されている。

更に、年下の少女に必死に説得されてしまっている。

何だか情けない状況だとは思ったが、何故だろう。

白い頬を伝う涙が、とても綺麗だと感じたのは。

透き通る雫に、心まで洗われるようで。

「安心してくれ。早まる気は無い」

都市庁職員の制服のポケットを探り、ハンカチを取り出して差し出す。

「だが、俺の代わりに泣いてくれて有り難う」

笑顔を見せると、少女もほっとしたように微笑んだ。

それだけで、胸の深くに明かりが灯ったように暖かくなる。

「良かった、私の勘違いだったんですね。すみません」

そっとハンカチを受け取りながら続ける。

「長い間海を見ていたので、もしかして飛び込むつもりなのかと思ってしまって。そうではなくて良かったです」

そう言ってから、少女は隣に立って海を見下ろした。

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