記憶の海.04
「海って不思議ですね。静かで、怖いけれど優しい」
「そうだな。昼間の海とは違った静けさがあって、いつまでも見ていたくなる」
二人はしばらく黙ったまま、髪を風に任せて海を眺めていた。
少女の横顔はまだあどけなさを残していて、高校生位かと思われた。
「……そういえば、どうして此処に?此処は立ち入り禁止の筈だが」
ふと疑問に思って尋ねると、少女は階段の所に置いたままのバケツを指で示した。
「この辺りの清掃のバイトなんです。ちゃんと通行許可証も持っていますよ」
「そうなのか。大変だろ」
「でも、時給良いんですよ。それに……」
少女はそこで言葉を止め、大きな瞳を向けた。
「貴方はずっと、一人で戦い続けて来たんですね」
不意に言われて、思わずその瞳を見返す。
「何でそう思うんだ?」
「伝わって来たからです。貴方が海のような、広い世界を夢見ている事。けれどこの場所に縛られて、自由になれないと。だからせめて、此処から海を見ていたのでしょう?」
真っ直ぐな瞳から目を逸らして低く言う。
「どうだろうな。夢見るなんて綺麗な感情が俺の中に残っているとも思えないが」
もう、そんな綺麗な表現では表せない。
自分の中に絶えず渦巻く感情は。
今も、真っ直ぐに澄んだ瞳を見詰め返せない。
少しの間、ただ波の音だけが二人を包み込んだ。
やがて、降りた静けさを壊さない声音で少女が言う。
「絶対に、私が味方になります」
その言葉に再び見た瞳は、ただ優しくて。
「貴方がきっと、自由に夢を見れるように。この海の向こうまで行けるように」
その声も、何処までも暖かく優しくて。
「例えば次に会う時は敵同士だったとしても、二度とこんな風には話せないとしても。私はいつも、貴方の味方でいます」
逆に涙が出そうになる。
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