神立


「荷葉さん……」

その名を呼んで、思い切り抱き締める。

「本当に、会いに来てくれたんですね」

「……桔梗さん」

この声に名を呼ばれた事は一度も無かった。

優しい言葉、眼差しも。

何一つ向けてはくれなかった。

それでも、それでも。

どうしても嫌いにはなれなくて。

それどころか。

抱き締める腕に力を込めて、もう一度呟く。

「会いに来てくれたんですね。私も貴方を捜していました」

高い空に、冷たさの混ざった風に、はらはらと舞う紅に。

心乱されながら。

捜していた。

明ける空、吹き抜ける風、舞い散る花びら、静かに激しく降る雨。

世界の美しさを感じる度、見付ける度に。

貴方を捜し続けていた。

それは切なくて懐かしい。

紅と漆黒の記憶。

巡り続ける、悠久の夢。









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Reservoir Amulet