神立


『幸せな、夢だ……』

『もしもいつか、生を受けたなら……』

あのどうしようもない哀しみを苦しみを切なさを。

また味わうのは、こわい。

残されるのは、寂しい。

けれど今、貴方は私を見ている。

「桔梗さん?」

名を呼んでくれる。

その事が、底の見えない寂しさを満たしてくれるから。

満たして、溢れて、張り裂けそうな程。

歓びが、想いが駆け巡る。

手を伸ばして荷葉の頬に触れ、その瞳を覗き込む。

月の無い夜、だからこそ。

普段は見えないものまで見えるようで。

初めてで、懐かしい。

私は知っている。 

この瞳も、この気持ちも。

泣きたい程、嬉しい。

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