怪異
「何か、食べたい物は?」
歩き出しながら尋ねると、しばらく考えた後で答えが返される。
「ラーメンとか?」
「また意外な感じですね」
「そうですか?」
「フランス料理とか言われるかと思いました」
冗談混じりに言うと、桔梗は絶句した。
「そ、そんな高価な料理、食べた事ありません」
「試しに行ってみます?」
「結構ですよ!私、マナーとか良く分かりませんし」
何かを言えば返って来る。
話しているのだから当然だが、それが何だかとても新鮮に思えた。
これまでは、一人だったから。
一人で戦い、一人で帰る。
それが、当たり前だったのに。
隣に誰かがいるだけで、こんなにも変わるとは思わなかった。
停めてあった車に乗り込み、エンジンをかける。
「じゃあ、ラーメンを食べに行きましょうか」
「はい」
「フランス料理は、次の機会という事で」
「えええ!?」
助手席で驚く桔梗の様子を見ながら、自分自身も驚く。
自分の口から、次の機会という言葉が出るなんて。
色々と意外で不思議な彼女に、思っていたよりも興味を持っているのだろうか。
この縁を、自分で思っているより強く。
大切にしたいと思っているのだろうか。
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Reservoir Amulet