「ああ、日が暮れる前に下りられましたね」

「はい」

ようやく並んで歩ける道に出ると、荷葉が微笑んで手を差し伸べて来た。

「今日は疲れたでしょう。美味しい物でも食べて、帰りましょうか」

夕暮れの暖かく切ないオレンジ色の光が、彼の整った顔を柔らかく照らしている。

それを見ると、また胸が締め付けられた。

こんな感情は知らない。

けれどこちらを振り向いて待っていてくれる事が、とてもとても嬉しいのは事実だから。

「はい、賢木さん」

微笑み返して、荷葉の手にそっと自分の手を重ねる。

そこから伝わる温もりが、渦を巻く戸惑いや葛藤も。

未だ名も知らない感情も包み込んでくれるようで。

これでもう、充分だと。

満たされると思えるから。

今はただ、彼と並んで歩く。

柔らかな光の中、二人の影が一つに伸びる。

やがて消えて行く光の中、触れ合うところから温もりが伝わる。

今はただ、それだけで良い。

それだけで良い。







- 60 -







[*前] | [次#]

しおりを挟む


ページ:



Reservoir Amulet