恋
「ああ、日が暮れる前に下りられましたね」
「はい」
ようやく並んで歩ける道に出ると、荷葉が微笑んで手を差し伸べて来た。
「今日は疲れたでしょう。美味しい物でも食べて、帰りましょうか」
夕暮れの暖かく切ないオレンジ色の光が、彼の整った顔を柔らかく照らしている。
それを見ると、また胸が締め付けられた。
こんな感情は知らない。
けれどこちらを振り向いて待っていてくれる事が、とてもとても嬉しいのは事実だから。
「はい、賢木さん」
微笑み返して、荷葉の手にそっと自分の手を重ねる。
そこから伝わる温もりが、渦を巻く戸惑いや葛藤も。
未だ名も知らない感情も包み込んでくれるようで。
これでもう、充分だと。
満たされると思えるから。
今はただ、彼と並んで歩く。
柔らかな光の中、二人の影が一つに伸びる。
やがて消えて行く光の中、触れ合うところから温もりが伝わる。
今はただ、それだけで良い。
それだけで良い。
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Reservoir Amulet