日が暮れる前にと、少し急いで山を下りる。

「……成程。そんな夢を見ていたんですか」

歩きながら話を聞いていた荷葉が呟く。

「それであの影がその女性で、妖魔が彼女の想い人だと」

「そう思います。無罪の罪で処刑されたのなら、世界を恨んだかもしれません。その強い意志が、妖魔に姿を変えた事も考えられます」

そこまで話して黙り込むと、荷葉は振り向いて尋ねる。

「どうかしましたか?」

「あ……いえ」

息をついてから出た声は、いつもより低かった。

どうしてか、この気持ちを口にするのに戸惑う。

「想いは、とても強くて……。こわいものだと思って」

それは時を越えて。

誰かの胸を打ち、動かす程の力を持つ。

見て、触れて、感じたから分かる。

想いの、こわい程の強さを。

「……そうですね」

やがて、荷葉は真剣な声でそう呟いた。

その前を行く背中を見詰めると、どうしてか胸が騒ぐ。

『貴女も私と同じでしょう』

時を越えた女性の言葉を思い出す。

あれはどういう意味なのだろう。

不意に、胸が痛んだ。

触れてはいけない。

この痛みの理由を探ってはいけない。

それは確かな予感のように、自分の中に在って。

失ってしまうなら、最初から求めなければ良い。

何もいらないのに、何かが欠け落ちているような。

どうしてか感じる空虚さが満たされる事は無くても。

- 59 -







[*前] | [次#]

しおりを挟む


ページ:



Reservoir Amulet