恋
日が暮れる前にと、少し急いで山を下りる。
「……成程。そんな夢を見ていたんですか」
歩きながら話を聞いていた荷葉が呟く。
「それであの影がその女性で、妖魔が彼女の想い人だと」
「そう思います。無罪の罪で処刑されたのなら、世界を恨んだかもしれません。その強い意志が、妖魔に姿を変えた事も考えられます」
そこまで話して黙り込むと、荷葉は振り向いて尋ねる。
「どうかしましたか?」
「あ……いえ」
息をついてから出た声は、いつもより低かった。
どうしてか、この気持ちを口にするのに戸惑う。
「想いは、とても強くて……。こわいものだと思って」
それは時を越えて。
誰かの胸を打ち、動かす程の力を持つ。
見て、触れて、感じたから分かる。
想いの、こわい程の強さを。
「……そうですね」
やがて、荷葉は真剣な声でそう呟いた。
その前を行く背中を見詰めると、どうしてか胸が騒ぐ。
『貴女も私と同じでしょう』
時を越えた女性の言葉を思い出す。
あれはどういう意味なのだろう。
不意に、胸が痛んだ。
触れてはいけない。
この痛みの理由を探ってはいけない。
それは確かな予感のように、自分の中に在って。
失ってしまうなら、最初から求めなければ良い。
何もいらないのに、何かが欠け落ちているような。
どうしてか感じる空虚さが満たされる事は無くても。
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Reservoir Amulet