距離


微笑みながら、自分も本を手に向かいに腰を下ろす。

ゆっくり読書をするのは、久し振りだ。

本を開きながら前を見ると、桔梗が眉をしかめて難しい顔をしていた。

きっと、最初に起こる事件の謎を考えているのだろう。

ころころと変わる表情は、普段は見れないから珍しい。

見ていて飽きない。

そういえば、こんなに静かで落ち着いた時間を誰かと過ごすのは初めてかもしれない。

こんな時間がずっと続いて欲しくて。

終わらなければ良いのにと思うのも。

ずっと一緒にいたいと。

側にいて欲しいと。

そう思える誰かに会ったのは、初めてかもしれない。

胸が騒いで落ち着いて。

欠け落ちているようなのに、満たされて。

初めてなのに懐かしくて。

もっと知りたくて、知って欲しくて。

『恋って人を変えるんだと思って』

相反する複雑な感情。

けれど根底に流れる、暖かいもの。

失いたくない、守りたい。

側にいたい。

これがもしも、恋だというのなら。

思っていたよりも、ずっと優しくて。

かけがえの無いものなのかもしれない。

『賢木さんは、恋をした事がありますか?』

今なら、はっきり答えられるかもしれない。

今、していると。








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