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「私は以前の貴方のこと、何も知りませんけど」

少ししてから、神無が言葉を選ぶようにゆっくりと言った。

「死んでしまえば、そこで終わってしまいますから。生きているから、変わって行けるんですよ。始められるんですよ、生きているなら」

真剣に訴える声には、何処か他人事ではないような響きがあった。

「貴方が幸せに生きる事を、願う人もいる筈です。今までも、これからも」

『ねえ、氷月……。貴方は幸せに、生きてね……』

記憶の中の娘の姿が、目の前にいる神無と重なる。

「……あんたも、そう言うのか」

「はい?」

「別に、何でもない」

素っ気無い返答だが、氷月の雰囲気が少し柔らかくなったのを感じる。

だから神無は、ほっとして提案した。

「では、こちらへどうぞ。氷月さんのお部屋を用意してありますから」

案内する娘の後に続きながら、祈るように目を向ける。

かつて、神などいないと自分は叫んだ。

いるのならば、こんな残酷な世界を許す筈が無いと。

しかし、今こうしていられるのは。

もう一度、此処から生きてみろと。

今度こそ、守り抜けと。

再びの機会を与えてくれているのだろうか。

変わって行けるだろうか。

生まれ変わったように、新しく。

罪深き朱色を抱いたままで。

君が愛した氷の光へと。





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