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「……俺は何も」
何も知らず、ただ案じるしか出来ない。
頼りない事この上無いだろう。
しかし、翼は笑顔のまま首を振る。
「大地さんと出会って、まだそんなに経っていない筈なのですけど。不思議ですね。私がこんなに深く誰かと関わるのは、初めてかもしれません」
「…………」
どういう意味だろう。
疑問には思ったが、紺青の瞳に確かに寂しさを感じて訊けなかった。
「ふう、何だかお腹がすきましたね」
呟いた翼は、何処からか煎餅の袋を取り出して開けた。
「舞って、体力を使うんですよね」
舞台上での神々しさなどあっさり脱ぎ捨て、ぱりぱりと煎餅を食べ出す。
そして、大地にも袋を差し出した。
「大地さんも如何です?美味しいですよ」
「……どうも」
静かな神社の裏手に、二人並んで腰を下ろす。
いつも通りの世間話を交わしながら、煎餅を食べる。
それは何気無い日常の風景のようで。
すぐに消える儚い夢のような一時でもあった。
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Reservoir Amulet2