ひとりじゃないよ

健気に彼のことだけを見つめる姿が可愛らしかった。
こんなふうに一途に大事に愛されたらどんなに嬉しいだろう。
だから君のことを理解するために同じ行動をとってみたら、やっぱり似た者同士のほうがもっと幸せになれるって思った。
どこにいたって、ちゃんとなまえのことを迎えに行くよ。
俺なら君をもっと理解してやれるはずだから。



退くんにちゃんと自分の思いを伝えたあと、やっぱりそういう雰囲気になってしまって、ずっとこのままならいいのにって位とっても幸せな気持ちのまま眠りについた。
でも、退くんが布団から抜け出したようで、そのあたたかさが少し薄くなったのを感じて目が覚めた。

「ん、どうかした…?」
「ごめん、起こしちゃったね。ちょっと呼ばれちゃって」

まだ目をこすりながらたずねてみても、お仕事だからか僕を置いて出て行ってしまう。
今日はさんざん邪魔されてしまったし、正直僕はこのまま退くんの腕の中で眠ってたかった。
ずぅっと働いてるんだからいい加減退くんを休ませて欲しいとは言えずじまいのまま、誰もいなくなった部屋の中でむっと眉を寄せた。
僕も追いかけるようにすぐ服を着て、声のするほうへ廊下を歩いていくと、屯所の入り口では怒鳴りあう声と、沖田さんと隊士に両腕を抑えられながらも抵抗している人がいた。

「おとなしくしろ!ここにはいないって言ってるだろ」
「家にいなかったんだ、ここしかありえない!」
「わざわざ捕まりにくるたぁ、どれだけ理解してねーんでさ」
「俺たちはただ愛し合ってるだけだ!捕まる理由なんてない!」

うわあ、大変そう。ここに居たらお仕事の邪魔になってしまうかも。
そのまえにこんなところに居たら怒られてしまう。部屋に戻っておとなしくしていようとしたとき、誰かに名前を呼ばれる。
多分部屋を出たことばれちゃったな。だめって言われてたのにすっかり忘れてしまったことを反省して振り向くと、先ほどまでとは違うこの状況には似つかわしくない笑みを浮かべていた彼と目が合う。

「なまえ、やっぱりここにいたのか。迎えに行くっていったのに家にいないから来ちゃったよ」

………この人だ。
僕のことをずっと見ていたのは。あの日僕のことを抱きしめたのは。
どうしたらいいのかわからなくてその場で困っていると、すぐさま別の隊士が「ここにいちゃだめです」と避難させるように僕の手を取って歩き出す。
後ろからは何度も僕のことを呼ぶ声がする。何度も、何度も。
呼ばれるたびになぜだか放っておけない気持ちが沸き上がって不思議だった。
僕は彼と同じことをしてきたから、受け入れられない寂しさだって痛いほどわかる、つまりは違う未来の自分を見ているような感覚だったのかもしれない。

退くんはこのままの僕で良いって言ってくれた。
でもそれと同時に嫌なものは嫌だって言ってほしい、ちゃんと自分でも考えなきゃだめだよって。
じゃあ今僕がしたいって思ってることをしても、退くんは嫌わないでいてくれるかな。

隊士の手を振りほどいて、すでに手錠をかけられていた彼へ駆け寄った。
そんな行動をするとは思わなかったのか怒った様子の沖田さんにもかまわずに、僕は地面にひざをついてまっすぐに向き合う。

「…なんで、ここに来ちゃったん、ですか」
「なまえが待ってると思ったんだ、こうやって駆け寄ってくれたってことはやっぱり…」
「知ってると思いますけど、僕には好きな人がいます。ここ、真選組に」
「あ、あんな奴より俺のほうがなまえのことを理解してやれる!騙されてるだけだ!」
「僕のことをストーカーするほど好きなら、同じことをしていた僕が…どれくらい好きかってわかりますよね」
「いやだ、いやだ…なまえ俺のことを好きになってよ、そんなの認めない」
「じゃあ認めなくてもいいです。僕が退くんだけを好きなのはずっと変わらない、ので。…でも、僕はあなたがいてよかったって、思ってます。僕なんかのためにありがとう」

素直な気持ちを告げた。変な話だけどどうしてもお礼を言いたかったんだ。
正直困ってしまうことが多かったけれど、それを差し引いてもお礼を言いたかった理由は屯所に来れたことだった。
そうでもなきゃここで過ごすなんてきっとできなかったし、少しの時間だけだったけど退くんと過ごす貴重な時間をつくってくれたのはこの人だ。
僕は退くんのことが1番だから、自分がこんな目にあったとしても退くんのことを知れるならそれは全部よかったことになってしまう。
そんな僕の考えはやっぱりおかしかったのか、急に泣きじゃくってしまった彼の姿に戸惑って、沖田さんを見上げると心底めんどくさそうな顔をしながらも問いかけてくれた。

「おい、泣いてねーで訳きかせろ」
「…は、初めてっ、なまえくんがこっちを見てくれた…包丁だって向けたのに、っなんでありが、とうなんてっ、そんなこと、言ってくれるんだ…」
「あなたがいたからできたこともあって、僕はやっぱり変かもしれないけど…ありがとうって気持ちが強いです」
「俺だって、なまえがっ、すきなのに…ただ、振り向いてほしかった、あんな風に好きって、言われたかった…っだから、写真だってなまえみたいに」
「好きな人のことは全部知りたくなっちゃうだけですよね。僕もいっしょです」

彼は力強く首を縦に振った。
本当は僕のことを理解するためにストーカーをはじめたこと、見てるだけで良かったのに我慢できなくなってしまったこと、そのどれもが僕とおんなじですこし笑ってしまった。

「僕たち考えること似てるかも。きっと良いお友達になれると思うな」
「と、友達………」
「ったく、何勝手なこと言ってんだ。助けてやった俺の身にもなりやがれ」

そうしているうちに騒ぎを聞きつけたのか、複数の隊士が外に出てきていた。
そのなかから僕たちの様子に驚いた退くんが走ってこっちに駆け寄ってくる。
僕はそれが嬉しくってすぐ立ち上がって退くんに抱き着いた。隊服の退くんに気にせず抱き着けるなんて最高すぎる。やっぱりありがとうしかないよ。

「おっせーぞザキ」
「すいません隊長立て込んでで…、なまえくんはここで何やってんの!」
「いま解決してね、ちゃんと退くんが言う通りに自分で考えて行動したんだよ。ほめてほめて!」

退くんは褒めてくれるどころか、まだ泣いている彼をじろりと見やる。

「あ、あのね…お礼言ったら泣かせちゃったみたいで」
「ええ…お礼って何、どうしたらそうなるの」
「ザキに同意見だぜ。なんでストーカーされてお礼言ってんだよ」
「だってこの人がいなかったら屯所に来れなかったし…お話ししてたら僕たち似てるみたいで、やっぱりこの人のことは否定できなくって…」
「それはそうかもしれないけど、だからって勝手にこんなこと」
「退くんもこうやってストーカーしてた僕のことをまっすぐ見てくれたでしょ」
「……なまえくん、どこまで俺のことばっかりなの」

沖田さんも他の隊士も砂糖でも噛んだかのように甘ったるそうな顔をしていた。
彼だけはこの状況をひとり理解できないのかぽかんとしているけど、そんなのおかまいなしに僕はありったけの思いを口に出す。

「あの、気持ちにはこたえられないけど、僕とお友達になってくれますか?」
「は?!なまえくん何言ってんの」
「……っ…友達、から…お願いします」
「友達からじゃねーよ、進展させる気じゃん。そんなの俺が許さないんだけど」
「おいおい男の嫉妬は見苦しいぜ」
「っ、でも隊長ぉ…こんなのおかしいですよ」
「あきらめなせぇ、みょうじだぞ」

僕は自分がいいと思った道へ進んだけれど、もしかしたら間違っているのかもしれない。
でも退くんと同じ方法を選べたことはやっぱり正解だと思う。
ちょっぴり嫌そうな顔をした退くんには心苦しいけれど、そもそも僕は退くんしか見てないから問題ないよなんて。えへへ。
 
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はじめ