僕なりの愛し方

良い雰囲気だったのに沖田さんたちに邪魔されてしまった。
改めて退くんと向き合って、唇を重ねようとした瞬間、入れ違いのように土方さんに呼ばれる。
二度も僕たちの邪魔するなんて悔しくてしょうがない。
そんな気持ちを察したかのように僕の頭を撫でて落ち着かせながら、ちょっと片付けてくるから良い子にしててと退くんは言う。
だから、その優しさにつけこんでお願いしてみる。代わりに退くんの部屋にいたいと。
土方さんに呼ばれて時間のない中、どうしようか悩む退くんに心苦しくなるけれど、絶対に今日、今この時じゃなきゃだめなんだ。

「退くんおねがい、僕なんでもするからお部屋行ってもいい?」
「それ俺が断れないってわかってやってるでしょ」

だって、今を逃したらいつこの時がやってくるかなんてわからない。
こんな機会でなければ退くんの部屋には二度とこれないかもしれないんだ。
そう思うとちょっぴり悲しくなって、改めて僕は彼とは違う一般人なのだと認識させられる。
同じ仕事をしてたらよかったのかな、そしたらもっと一緒にいられたのかな。
いつになく必死だったからか、僕のおねだりに負けてしまった退くんに手を引かれながら廊下を早歩きで駆ける。
そこについて戸を開けただけで、死んじゃうんじゃないかってくらい僕の胸はドキドキするのだった。

「ここが俺の部屋。先に言っておくけど仕事関連のやつは…」
「もちろん触らないよ。ちゃあんとお仕事以外のものを物色します」
「ほどほどにしてくれると助かるかな…じゃあ、行ってくるから良い子にしててね」
「うん、良い子にしてる!お仕事がんばってね」

退くんはすぐに隊服に着替えて走っていってしまい、その姿が見えなくなってから障子をそっとしめる。
そうすればもうここは退くんのことだけを感じる空間になる。
はあ…どうしよう、幸せすぎて僕はどこから手を付けたらいいんだ。
ひとまず脱ぎっぱなしにされた服を手に取って、退くんのにおいを感じるとそれはもっと強くなって現れる。
たんすの中にしまわれた服はなにいろをしているんだろう、ティッシュの捨てられたゴミ箱と一緒に放られたお菓子の袋は何味だったんだろう、布団があった場所が空いた押し入れの隙間に落ちた本はなんだろう、思いがたくさんつまってそうな机の引き出しはなんだか頭の中みたい。
畳に寝転がって天井を見る、それだけでも退くんが寝るときにいつも見る光景だと思ったら特別なものに思えてたまらなかった。
ひとつひとつ退くんのものをなぞるたびに少しほっと安心して、同時にごめんねって気持ちで苦しくなる。
やっぱり僕は僕のまま、退くんをつくるすべてのものを感じたいんだ。
もしこれが悪いことだとしても、だってそれが僕なりの愛なのだから。



なまえくんを俺の部屋でひとりにさせてしまった、それがどういうことかわかるだろうか。
潜入から帰って来てすぐなまえくんと居たから掃除どころか、見られたらまずいものとか何も整理できてないことに今更気づいても遅かった。
だってまさかなまえくんが屯所にいるとは思わないじゃないか、油断していたというのが本音だ。
なるだけ早く仕事から戻るつもりだったけれど、こないだまで潜入していた案件とか、なまえくん絡みの件とか意外とやることは多くって数時間もたってしまった。
最悪下着あたりがなくなってる位ですめば安いものだと思いながら、自分の部屋の戸をあける。
失礼だけど散らかしていると思っていた部屋は意外とそのままだった。むしろ出かける前よりきれいになってるかも。

「なまえくん、お待たせ」
「あ、退くんおかえり!見てみて、ばっちりエロ本もみつけちゃいました」
「こら!良い子にしてろって言ったのに」
「えへへ、でも退くんこういうのが好きなんだね。…全然知らないことばっかりで少し悲しくなっちゃった」

泣きそうな顔でうつむく姿にドキッとする。
持っているのがエロ本(買った理由はちょっとなまえくんに似てたから)だとしても、そんな表情をさせたのは俺のせいだ。
恋人の部屋に行くことだって普通なら簡単にできることなのに、なまえくんにはたくさん我慢をさせていたんだと思う。

「これから知っていけばいいよ。それに俺はちゃんとなまえくんが好きだから安心して」
「…あのエロ本の巨乳より?ページに折り目ついてたしだいぶお気に入りみたいだけど」
「何いってんの!なまえくんが一番に決まってるじゃないか」
「じゃあ僕が不安にならないように、抱いて欲しいな…?」
「もちろん、ってそれ言わせようとしたでしょ」
「ばれちゃった」
「もう!だいたい何でここにいるかわかってんの」
「わかってるけど、おかげで退くんのお部屋にこれて良かったなって」

その言葉にハッとしてなまえくんの両肩をつかんで向かい合う。
不思議そうにこちらを見つめる姿になんとも言えない気持ちになるが、今回の出来事をちゃんと話さねばならない。
さすがにこんな時まで俺のことばかりなのはどうかと思うぞ。

「全然わかってない。なんでもっと危機感をもたないのさ」
「今回のは、退くんを好きな人からの嫌がらせだと思ったんだもん。だから別に…」
「もしそうだとしても誰にも言わないつもりだったろ。それで放置した結果がこれなんだぞ」
「でも、なんとかなると思ってたし、退くん以外どうでもいいし…」
「下手したら死ぬとこだったって聞いたけど。なまえくんは少しも嫌じゃなかったの?」
「……っじゃあ、退くんは?僕がしてきたこと、本当はずっと…嫌じゃなかった?」

声が震え出すなまえくんの様子から、心の中に生まれていた疑問がすとんと正解に落ちてきたようだ。
たしかにあのストーカーがやっていることはかなりなまえくんと似ている。
いっそ行動を真似ているのかと思うほどで、違うことは刃物を向けたことくらいだろう。
つまりは、俺があいつを否定する度にひとつひとつがなまえくんまで否定してしまう言葉となってしまう。
そんなことない。君はあれとは違う特別だ。そう思う度にそれは結局好きになってしまった結果論なのも事実だ。

「だからって、それがなまえくんを傷つけていい理由にはならないよ」
「僕なんかどうでもいい…退くん以外ぜんぶいらないに決まってる。でも僕と同じことをする人を否定したら、退くんに嫌われたっておかしくない。そんなの僕は…」

いやだ。きらわれたくない。すてないで。
泣きながらそんなことばかり呟くなまえくんに既視感を覚える。
それは初めてちゃんと好きだと伝えた日のこと、お布団のなかで泣きじゃくりながら俺の名前を呼ぶ姿だった。
あれから成長してない様子に少しあきれて、でも何故かそれが愛おしい。
こんな時まで俺のことばっかり考えて、俺がいないとダメになっちゃうのがなまえくんなんだ。

「ばかだなぁ、俺は全部ひっくるめてなまえくんが好きになったのに」
「っ、…僕のこと…嫌じゃ、ない?」
「好きに決まってるじゃないか。なまえくんがいつも言ってるやつとおんなじだよ。君にだったら何されてもいいって」
「退くんがそんなに僕のこと…好きって、思ってなかった…ずっと本当は嫌なんじゃないかって…でも、これが僕だから、っやめられなくて……これからも僕は退くんを全部知りたい…それでもいいの…?」
「それがなまえくんだろ。だったら俺はまるごと愛すだけだよ」

あの時と同じ、たくさんキスをしながら泣き止ませる。
そうすれば少しずつ泣き止んで、代わりにいつものへへへって笑い声と照れた顔を見せてくれる。

「でもさ、正直すっごく怒ってんの!ただでさえいない間にこんなこと起きてるし?あの写真も見たけどさ、俺のなまえくんを抱きしめるなんて百年早いんだよ!なまえくんも何で簡単に他の奴に触らせてんの?だから危機感が足りないって言ってたんだよ。俺のなまえくんが他所の奴にそういうことされるの1ミリでも嫌なんだってば」

怒りのあまりまくしたてる俺をみて、さきほどまでの可愛らしい照れ顔はどこかへ行ってしまった。
目を丸くして口をぽかんとあけるなまえくんを、そのまま両手で顔をぎゅむっとつつむと、ちょっとだけまぬけな姿になってしまった。
こんな顔初めて見た。俺もまだ知らないとこいっぱいあるんだな。

「自分のことちゃんと考えられないんだったら、誰にも手出されないようにきつく束縛されたい?」
「さ、されたい…!もう退くん以外の人と会話しないしGPSもつけるしメールは語尾に全部ハートマークつける!」
「今のは冗談だったんだけどな」

俺の手にそっと自分の手を重ねて、めずらしくしおらしいなまえくんにドキッとする。

「退くん、こんな僕でごめんね」
「…ごめんより好きって言われたいんだけど」
「っ、すき…!退くんがいちばんすき!だいすき!」

照れ隠しをして、すこしだけ拗ねたふりをした。
たくさんキスをしながらご機嫌をとってくるなまえくんの姿に、これは逆に喜ばせるだけだったなって思いながら、自分もまんざらでもない顔をするのだった。
 
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はじめ