知らない君を見つける
あれからうちの隊士とうちとけて、ましてやあのストーカーとも和解してしまったなまえくん。
いつも俺のことばかりだった彼の視野が広がることはとても良いことだと思う。しかしそれを純粋に喜べないのも事実だ。
嫉妬くらい誰でも恋人に対してするかもしれないけど、いま何をしているのか、誰といるのかまで気になってしまうのは、なまえくんに毒されてきたからなのか。
何かを疑っているわけでもないけれど、君を見習って今日はなまえくんの後をつけてみることにするよ。
***
この時間は見回りで出歩く時間だ。
仕事の行動パターンは大体把握されてしまっているから急遽休みを変わってもらった。これで俺が何をしているかよめなくなるだろう。
案の定向こうから歩いてきたなまえくんはきょろきょろ周りを見ながら通りを往復していたけれど、俺がいないとわかるとベンチに座ってじっと通りを眺めていた。
遠くから双眼鏡片手にじっとその様子を伺っていると、近くにいた隊士から声をかけられて、なまえくんは明らかに落胆してうつむいてしまう。
恐らく俺が休みということを知ったのだろう。
眉毛を下げてしょんぼりした顔に心苦しくなるが、尾行はまだ始まったばかりだ。この調子じゃ先が思いやられてしまうぞ山崎退、それでも監察か。
そんなことを考えているうちにあの隊士はなまえくんの横に座り始めた。
いやなに俺の許可なく隣座ってんのあいつ。なまえくんだって嫌がるだろ…ってあれ?急に笑顔になってるし。え、なにその顔。かわいいけどなんで。
ここからではどう頑張っても会話は聞こえないけれど、もしかしなくても俺の話してるのかな。
うぬぼれすぎとも思うけど思い当たる節がないわけじゃない。なまえくんはいつのまにか屯所での出来事を知っていたりするのだ。恐らくこうやって情報収集していたんだろう。
先に盗聴器をつけておくべきだったと詰めの甘さを悔やんでも遅い。
ニコニコ笑って楽しそうななまえくんを目の当たりにして胸の内がもやもやと黒くなっていく。
たとえ俺の話をしていたって、俺以外にそのかわいい顔を見せているんだから。
次になまえくんは喫茶店に入っていった。本来なら今の時刻は屯所に戻っているころだ。
つまり俺が外にいない間にいろいろと用事をすませていると推察される、なんてそれについては前に本人も言ってたんだけどね。
それでも実際になまえくんがひとりで過ごす時間を見れるというのはとても貴重で、ストーカーする気持ちがわかってしまったような気になる。
ひとりクリームソーダでも飲んでるんだろうか、いつもアイスを先に食べちゃうんだよな。
その姿を想像するだけで場所が違えばなんだか新鮮で、答え合わせをするように中を覗く。
………沖田隊長といるんですけど。なんで?!隊長がここにいんのォ?!!
なまえくんは顔を真っ赤にしているし(何そのかわいい顔今日2回目じゃん)、隊長の手をとっている様子が見えてしまって(何で俺以外を触ってんの)、頭のなかの処理が追いつかない。
想像もしてなかったんだから追いつくはずもない。
だってこんなの浮気現場を見てるようじゃないか。
もしかしたら今日、尾行なんてするべきじゃなかったのかもしれないな。
まだ現実を受け止めきれず、ふらふらとしながらもその場を離れようと歩きだした時、後ろから女性の声がした。
この声は…もしかして……!
「た、たまさん!奇遇ですね!」
「どうかされましたか。元気がないように見えますけど」
どうして毎回俺が辛い時に声をかけてくれるのか。
その存在に感謝しながら涙ぐんでいると、目の前になんだか見覚えのあるティッシュが差し出された。
また貴女の世話になってしまうなんて俺も成長しないな。
変わらない優しさにあの頃の気持ちを懐かしくも思い出して、受け取ろうとした手はうっかり触れてしまう。
「すすすみません!俺なんかがたまさんの綺麗な手を触るなんて!」
「気になさらないでください」
心臓がどきどきしてしまうのになんだか心地よくて、もう過去のことではあるけど俺の中では大切な思い出なのだと実感する。
こんなのなまえくんにバレたらどうなることか…
思いすらも拭うように涙を閉じ込めれば、クリアになった視界でたまさんの目線が俺の後ろに向いた。
「あの方…先程からこちらを見ていましたけど、何か用事があったんでしょうか」
邪魔をしてしまったかもしれないと申し訳なさそうにするたまさんに嫌な予感しかしなくて、冷や汗の流れる気持ち悪さを感じながら振り向く。
そこには沖田隊長に手を引かれて走り去るなまえくんがいた。
なんでこのタイミングで出てきてんだよォ!絶対勘違いさせてるじゃんか!
ただでさえ、なまえくんには俺が今日休みであることを伝えていない。終わった。最悪の場合心中をせがませるかもしれない。さよなら俺…
「大丈夫ですか」
たまさんの声で妄想から我に返って、一言謝るとすぐさまふたりを追いかけた。
***
沖田隊長に手を引かれて走っていたからか、うまいこと路地に入られてしまったようで見失ってしまう。
早く見つけたい焦りだけが募っていき、なまえくんと俺の時間を無理やり止められているような感覚に余計悔しくなる。
誤解なんだ。だって君を見るために俺は時間を使っていたんだ。
きょろきょろとあたりを見渡して少しだけ暗い路地にぴんとくる。ゆっくりその道に進むと沖田隊長がいた。当たりだ。
でも、腕の中になまえくんを抱きしめているのはなんでですか…
隊長の肩にのせられた顔は涙で隊服を色濃く変えていたし、何も掴まずだらりと地に伸びた手はあまりにも無気力だ。
今すぐ誤解を解きたい。その一心で一歩前に進もうとした瞬間、なまえくんは縋るように手を伸ばすから俺の足は止まってしまった。
その背中を優しく撫でる沖田隊長は見たことのない顔をしている。まるで痛みに共感して守るかのように。
後なんてつけなきゃよかったよ。泣きたいのはこっちだってば。
いつも俺のことばかりだった彼の視野が広がることはとても良いことだと思う。しかしそれを純粋に喜べないのも事実だ。
嫉妬くらい誰でも恋人に対してするかもしれないけど、いま何をしているのか、誰といるのかまで気になってしまうのは、なまえくんに毒されてきたからなのか。
何かを疑っているわけでもないけれど、君を見習って今日はなまえくんの後をつけてみることにするよ。
***
この時間は見回りで出歩く時間だ。
仕事の行動パターンは大体把握されてしまっているから急遽休みを変わってもらった。これで俺が何をしているかよめなくなるだろう。
案の定向こうから歩いてきたなまえくんはきょろきょろ周りを見ながら通りを往復していたけれど、俺がいないとわかるとベンチに座ってじっと通りを眺めていた。
遠くから双眼鏡片手にじっとその様子を伺っていると、近くにいた隊士から声をかけられて、なまえくんは明らかに落胆してうつむいてしまう。
恐らく俺が休みということを知ったのだろう。
眉毛を下げてしょんぼりした顔に心苦しくなるが、尾行はまだ始まったばかりだ。この調子じゃ先が思いやられてしまうぞ山崎退、それでも監察か。
そんなことを考えているうちにあの隊士はなまえくんの横に座り始めた。
いやなに俺の許可なく隣座ってんのあいつ。なまえくんだって嫌がるだろ…ってあれ?急に笑顔になってるし。え、なにその顔。かわいいけどなんで。
ここからではどう頑張っても会話は聞こえないけれど、もしかしなくても俺の話してるのかな。
うぬぼれすぎとも思うけど思い当たる節がないわけじゃない。なまえくんはいつのまにか屯所での出来事を知っていたりするのだ。恐らくこうやって情報収集していたんだろう。
先に盗聴器をつけておくべきだったと詰めの甘さを悔やんでも遅い。
ニコニコ笑って楽しそうななまえくんを目の当たりにして胸の内がもやもやと黒くなっていく。
たとえ俺の話をしていたって、俺以外にそのかわいい顔を見せているんだから。
次になまえくんは喫茶店に入っていった。本来なら今の時刻は屯所に戻っているころだ。
つまり俺が外にいない間にいろいろと用事をすませていると推察される、なんてそれについては前に本人も言ってたんだけどね。
それでも実際になまえくんがひとりで過ごす時間を見れるというのはとても貴重で、ストーカーする気持ちがわかってしまったような気になる。
ひとりクリームソーダでも飲んでるんだろうか、いつもアイスを先に食べちゃうんだよな。
その姿を想像するだけで場所が違えばなんだか新鮮で、答え合わせをするように中を覗く。
………沖田隊長といるんですけど。なんで?!隊長がここにいんのォ?!!
なまえくんは顔を真っ赤にしているし(何そのかわいい顔今日2回目じゃん)、隊長の手をとっている様子が見えてしまって(何で俺以外を触ってんの)、頭のなかの処理が追いつかない。
想像もしてなかったんだから追いつくはずもない。
だってこんなの浮気現場を見てるようじゃないか。
もしかしたら今日、尾行なんてするべきじゃなかったのかもしれないな。
まだ現実を受け止めきれず、ふらふらとしながらもその場を離れようと歩きだした時、後ろから女性の声がした。
この声は…もしかして……!
「た、たまさん!奇遇ですね!」
「どうかされましたか。元気がないように見えますけど」
どうして毎回俺が辛い時に声をかけてくれるのか。
その存在に感謝しながら涙ぐんでいると、目の前になんだか見覚えのあるティッシュが差し出された。
また貴女の世話になってしまうなんて俺も成長しないな。
変わらない優しさにあの頃の気持ちを懐かしくも思い出して、受け取ろうとした手はうっかり触れてしまう。
「すすすみません!俺なんかがたまさんの綺麗な手を触るなんて!」
「気になさらないでください」
心臓がどきどきしてしまうのになんだか心地よくて、もう過去のことではあるけど俺の中では大切な思い出なのだと実感する。
こんなのなまえくんにバレたらどうなることか…
思いすらも拭うように涙を閉じ込めれば、クリアになった視界でたまさんの目線が俺の後ろに向いた。
「あの方…先程からこちらを見ていましたけど、何か用事があったんでしょうか」
邪魔をしてしまったかもしれないと申し訳なさそうにするたまさんに嫌な予感しかしなくて、冷や汗の流れる気持ち悪さを感じながら振り向く。
そこには沖田隊長に手を引かれて走り去るなまえくんがいた。
なんでこのタイミングで出てきてんだよォ!絶対勘違いさせてるじゃんか!
ただでさえ、なまえくんには俺が今日休みであることを伝えていない。終わった。最悪の場合心中をせがませるかもしれない。さよなら俺…
「大丈夫ですか」
たまさんの声で妄想から我に返って、一言謝るとすぐさまふたりを追いかけた。
***
沖田隊長に手を引かれて走っていたからか、うまいこと路地に入られてしまったようで見失ってしまう。
早く見つけたい焦りだけが募っていき、なまえくんと俺の時間を無理やり止められているような感覚に余計悔しくなる。
誤解なんだ。だって君を見るために俺は時間を使っていたんだ。
きょろきょろとあたりを見渡して少しだけ暗い路地にぴんとくる。ゆっくりその道に進むと沖田隊長がいた。当たりだ。
でも、腕の中になまえくんを抱きしめているのはなんでですか…
隊長の肩にのせられた顔は涙で隊服を色濃く変えていたし、何も掴まずだらりと地に伸びた手はあまりにも無気力だ。
今すぐ誤解を解きたい。その一心で一歩前に進もうとした瞬間、なまえくんは縋るように手を伸ばすから俺の足は止まってしまった。
その背中を優しく撫でる沖田隊長は見たことのない顔をしている。まるで痛みに共感して守るかのように。
後なんてつけなきゃよかったよ。泣きたいのはこっちだってば。