甘い世界と戯れる

※性転換編
※男主×退子
※生理の話有り



寝坊してしまったことに焦っていた僕は、早く彼に会いたくて急ぐことに精一杯だった。
いつもより少し遅い時間に着いたいつもの巡回ルートで、すぐに乱れた髪の毛を整えて、カメラの準備をして、あとは彼が来るのを待つだけ。
そわそわしながら待っていれば、少しだけ生まれた余裕からなんとなく騒がしい街の雰囲気を感じた。
周りでは男だ女だと何かが流行っている様子で、でもかぶき町だからと思って考えることをやめる。退くん以外のことを考えてもしょうがない。

それなのにいくら待っても一向に彼が来る気配がない。
そもそも見回りの時間だというのに隊士自体がいない。
いるのは隊服を着た女性がちらほら。

隊服を着た女性…?

真選組はついに男女平等雇用が始まったのかと僕の思考回路はどんどんネガティブな方向へ向かう。
だって隊内に異性なんていたら絶対に退くんのことを好きになるに決まってる。大体がいつの間にか山崎さんのこと好きかも…なんて恋愛に発展していくのを夢小説で見た。
タイムスリップしてロマンチックを貰おうが、女中として働いてお嫁さん気分になろうが、女隊士として命懸けのラブロマンスしようがみ〜〜〜んなそう!絶対いつの間にか退くんのこと好きになっちゃう!そんなの男でも女でも僕以外絶対に阻止!!!
いっそ僕か退くんのどっちかが女の子だったらもう少し楽だったのかな。なんてらしくもない考えをしてしまってたくらい、僕は女性隊士の登場に不安を煽られていた。
とにかく退くんをつなぎとめる方法を考えるのに必死だったんだ。


「なまえじゃ〜ん」
「ひえ…っ!?」

いきなり呼ばれた名前にびっくりして身体が跳ねる。
いつも通り退くんのことを考えながらストーカー業務に励んでいただけなのに、気づいたら制服を着た知らない女の子が僕の腕に絡みついている。

「ねぇお兄さん、JKと遊ばな〜い?」
「えっ……離して?僕、あの、援交とかしないよ…?」
「今時はパパ活って言うの知んねーのかィ」

なんとなく聞き覚えのある話し方に違和感を覚えた。とはいえ女の子の知り合いなんていない。
振りほどこうとしても驚くほど強い力に戸惑っているうちに、きゃあきゃあと僕の周りを女性たちが囲い出す。
僕のことを好き勝手に弄り回して、かわいいだの意外とタイプだの。一生僕が言われないだろう言葉のオンパレードに巻き込まれて、どうしてこんな状況になっているのか頭が混乱してしまう。
モテ期なら退くんだけに効果があればいいし、援交?パパ活?なんてもってのほかだし、目がぐるぐる回ってはわわわわ。

「おめーら何、人のに手ェ出してんのよォオオ!」

突然僕を守るように目の前に現れた、ツインテールの女の子。
それはあまりにも聞き覚えのある声をしていた。




「へ…へえ、退くん女の子にされちゃったんだ…」
「あってるけどその言い方だとエロ同人みたいだからやめようね」

詳しい話を聞けば、かぶき町は大変なことになっていたらしい。なんでも性別が逆転してしまって、今はその性別らしく過ごさないとだめなんだって。
疑うにも目の前にいる退くんが本当だと物語っている。
僕は偶然にも騒動が起きた後にこの街に入り込むことができて、珍しくしてしまった寝坊もこれを予知してたのかなって思った。

「みんな女の子になっちゃったの?」
「うん。さっきの沖田隊長たち見ただろ?局長なんか宝塚風の美人になっちゃってさぁ…私ももーう少し綺麗にしてくればよかったのに」

ちぇ、と唇を尖らせながら教えてくれた。
僕に絡んだJKは総悟くんで、その周りにいた女性達はみんな隊士達だったらしい。
言われてみればなんとなく見覚えのあるような気もするけど、僕が退くん以外のことをそんなに覚えているわけもないから結局わからない。

「僕は退くんがいちばん…か、かわいいと思ったよ?」

少しだけ大きくなった目をぱちぱちさせて微笑む姿に、やっぱりどきどきして変わらない気持ちのままだった。
たとえ退くんが女の子になっても、好きなんだって。

「ふふ、ありがと。でも今は退子って呼んで」
「じゃあ、るこちゃん…?」

女の子の名前を呼ぶなんて初めて。また初めてを奪われてしまった。
はっ!退くんが女の子になってしまったということはだよ?今まで以上にもっとぴったりくっついて、僕が守らなきゃいけないってことだ!
だって何があるかわからないもんね。むしろ既に知らないところで起きてるかもしれない。

「るこちゃん、なにか困ったことはない?」
「うーん、まだ女の子1日目だし…」
「えっ1日目…!それってああごめん僕気づかなくて…」

その手を取ると小さくて柔らかくてほんのり桜色。
まさに女の子の手だった。




そのまま近くにあったホテルへと連れ込もうとしたら、いやいや喚き出されて困ってしまった。
恥ずかしいからだって僕はわかってるから大丈夫だよ。そんなに顔を真っ赤にされると可愛くってドキドキしちゃうなぁ。
無理やりベッドに横になってもらって、そのまま添い寝をしながらお腹をさすった。たしかあたたかくするといいんだよね。

「生理ってお腹痛いんでしょ…?今日はもうお仕事休んでゆっくりしようね」

でも生理ってことは合法的に退くんの血が飲めてしまうってことだよね?うーん、これは直飲みもしたいし、経血を持ち帰って炊き込みご飯にしてもいい。
すごい。今までできなかったことができてしまう。
ぽわぽわと描いた未来予想図ににんやり笑っていれば、それを遠慮なくびりびりと破けるのはひとりだけ。

「何スッゲー勘違いしてんの!生理じゃないしまだ仕事中なんだけど!」
「じゃあ血飲めないの…?」
「絶対に飲むな!…っなんだよ。急にホテルに連れ込むからてっきり……え、えろいことされるのかと思った」
「えっ」

恥ずかしそうに両手で顔を隠す姿を、僕はきょとんとした顔で見つめた。
生理だったら身体がつらいんじゃないかって心配して空回りして、今の今まで処女だと言うことをすっかり忘れていた。処女、処女だ……いや退くんはもともと非童貞処女だけど。
そうか、今なら子供を作れてしまうんだ。
退くんをつなぎ止めておく方法が増えてしまった。

「あー……やばい、余計なこと言ったかも?」

ぶわあっと込み上げてきた感情を抑えきれなくて、僕は退くんに覆いかぶさった。
いつもと違う華奢な体をいっそ壊したくなるほど、自分でもわかるほどにぎらついた目が熱い。
身体中がどくどくと鼓動を打つようなこの感覚、好きな人のすべてが欲しいってこういうことなのかもしれない。

僕のぜんぶをあげるから、その全部をちょうだい。
願いを乞うように口付けた。

「退くんの…るこちゃんの、初めてをください」

 
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はじめ