甘い世界と戯れる2

※性転換編
※男主×退子


「おかえり〜ねぇ処女捨ててきたの〜?」

なんとか仕事に戻ると、さっきより幾分か面の皮が厚くなった元野郎どもに爆弾を投下される。

「捨ててないから!ちょっと休憩しただけだから!」
「休憩2時間延長なし?デリ嬢扱いじゃ〜ん」
「だから違うって言ってるじゃない!悲しいくらいまっさらなままなんだから!」
「ウチらに隠し事とかなしっしょ。地味な子ほど経験早いっていうじゃない」
「それか毛の処理甘くて引いたから帰されたんじゃね?退子ドンマイ!次頑張ろっ」
「うちの彼氏はぁ〜?私だったらなんでも大好きって〜?言ってくれるから大丈夫でぇ〜〜〜す!」

こいつら人の話なんかまったく聞いてやしない。現にマスカラを塗りながら向いてんのは鏡の方向。
片方はアイライン引きながらぽつり、ちんちんでかいと変わりにクリでかくなんのかなとか呟きやがった。
そんなの絶対教えねえし余計なお世話だよ!どんどん女に近づいてるよおめーら!えぐい下ネタできゃぴきゃぴしやがって!

こっちだってまさか女の子になって数時間で「るこちゃんの初めてをください」なんて言われるとは想像もしてなかったよ。
そんな決心ついてないし仕事中だし早く元の体に戻りたいしなまえくんの目はマジだし?!
その全部の気持ちを丸めて分投げたのに、いつもより数倍しつこくネチネチネチネチと1人じゃ心配だ(これでも一応まん選組なのに)、童貞をもらってほしい(それは…まぁ欲しいかも)、と続く言葉にどうしようかと悩んだ末「女の子はいろいろ用意とか必要だから!!!」って納得させた。
いやよく考えたら何の用意が必要なんだよ。ゴムか?すぐそこに備え付けがあったのに?
なまえくんが童貞だから助かったけど、処女喪失記念日には毎年お祝いしようねなんて頭がお花畑すぎる返事には白目を向いてしまった。
俺…この戦いが終わったら処女喪失するんだ…はは……



「って思ってたのに、驚くほど手ェ出してこないんだけどあの童貞」

意外にも「女の子は用意とか大変」という言葉が効いたらしい。むしろ効きすぎたくらいだ。
あの日からぶら下げ始めたツインテールは今じゃ結ぶのだってなれっこ。
こうなったも凸凹教との戦いの末、地下にいた私たちは元の姿に戻ることは無かったからだ。
そして今後の就職先となる吉原でミニスカポリスとして働くことをなまえくんが絶対に許すはずもない。地下から這い出てどうしようか悩んでいた私にくれたのはプロポーズだった。

「僕が養っていくから、ずっとそばにいてください」

言葉と共にキラリ光る指輪、あまりにも真剣な表情。それらにハートをぶち抜かれて「はい」なんて返事はすぐに出た。
周りにいた隊士という名のギャラリーに祝福の拍手をこれでもかと言うくらい貰い、局長は「女に産まれた幸せ、楽しまなきゃね」とかそれっぽいこと言ってくるから何故か泣けてしまった。
この後すぐに私の荷物は全部なまえくんの家に運ばれ「今日からるこちゃんは専業主婦だよ」と言われた時の衝撃ったら半端なくてまた泣いた。

というのもなまえくんはもともと在宅のお仕事をしていて、その動機はストーカーできるように時間を自由に使いたかったなどと供述しており、つまりは私が常に家にいることで24時間365日一緒にいる事が本当に可能になってしまった。
同じものを食べて、同じベッドでねむって、同じ時間を過ごす。家からでなければ世界がふたりだけになってしまったような感覚に陥る。
見方によっては監禁ともいえるような同棲生活だけど、私も仕事に縛られることもなくなまえくんが望んでいたことが実現されたのなら、これはある意味幸せなんじゃないかと思えるようになった。
女の子になってしまったもんはそういう運命だったともう諦めるしかないし。
それでも時々、本当に幸せなのか確認してしまうのは君がふと見せる、悲しげな表情のせいか。

「…やっぱこの身体じゃ嫌だったのかな」

この姿になってからはなんだか遠慮気味って感じなんだよな。
もともと恋人同士なわけだし自然と距離は近いけど、今更手を触れるだけで顔真っ赤にしたり。それはそれで可愛いけどさぁ…
いっそのこと奥手ななまえくんを襲ってしまおうか。熱心に机に向かって仕事をしている姿を見ながらニヤリと笑った。



ティッシュよし。枕元ゴムよし。決意、よし。
寝る前の歯みがきを終えて寝室にはいってきたなまえくんは、なんにも知らないでねむそうな顔をしてた。
こっちに近づいてベッドに入ろうとした瞬間、やっとそれらに気づいて目を見開く。思った通りの反応しててかわいい。

「えっ…なにこれ…」
「ちゃんと用意したんだけど」

数秒固まった後ようやく意味を理解したのか、体を強張らせたまま戻ろうとしてしまった。
慌てて抱きついて動けなくしてやれば、あたふたと焦る様子がかわいくって、ついでに胸も押し付けてやった。そんなに無いくせにとか言うなよ、ちょっとはある。

「あ…えと、もっかいシャワーあびてくる。あとうがいと歯みがきと爪切ってくるから」
「全部終わってるでしょ。それにほら…最近ずっと深爪してるの気づいてたよ」

この指を見るたびにドキドキさせられてたんだ。傷つけないようにって思いながら、いつでもできるように準備してくれたのかなって。
その手をとればじんわりと温かくなった手のひらから緊張感が伝わってきて、こっちまでどきどきと鼓動が早くなる。
なぞるように自分の指を絡ませたら、それだけでなまえくんは息を呑む。

「この指でやらしいことするの想像してた?」
「う……そんなこと…っ」
「もう我慢しないでいいよ」

待てを続けた犬がやっと許されたように、勢いよくその体をベッドに縫い付けた。
息を荒くして興奮しきった男の子の顔に胸が高鳴ってしまう。
こんなの見たことない。ぎゅうって握られた手首だって、改めて感じた体格差だって変な感じなのに、知らないなまえくんを見れたことが嬉しくてもっと欲しくなる。
この先をねだる瞳がゆらゆら揺れて、さっきまでとは違う雰囲気にのまれてしまいそうだ。

「本当に、いいの?」
「なまえくんにならいいよ。だから………」


ぴぴぴぴぴぴぴ!
突然鳴った携帯の着信音。


それまでの熱を一気に冷ましたそれは、真選組の携帯だった。
まん選組を辞めてからもなんとなくキッチリ充電して使えるようにしていたのが仇となった。
案の定イイ感じだったふたりの空間を邪魔されて、思いっきり不機嫌になったなまえくんをよしよしと宥めながらかかってきた電話に出た。

「とっとと電話出ろ。切腹させんぞテメー」

久しぶりに聞いた副長の声。有無を言わなさない言い方がなんだか懐かしくて笑ってしまった。
すると真横にいたなまえくんが手をぎゅっと握ってすっごい顔してこっちを見てる。
ただでさえ邪魔されて怒ってるのに、よりによって副長からかかってきたってバレてる。やばいさっさと用件きいて切らないとまずい。

「きょ、局中法度ならもう無効ですよ。まん選組辞めてますし…」
「真選組は辞めてねーだろ。つべこべ言わずに早く隊服着て来い。元に戻りたいならな」
「元に…戻れる……?」

プツリと切れた電話の音が増していくのは、はやる気持ち。
そうか、本当は元に戻りたいってずっと思ってたんだ。だから真選組の携帯だっていつでも使えるようにして、未練があったのは俺のほうだ。

「なまえくん、俺…」
「るこちゃんの初めて、貰い損ねちゃったな」

それは時折見せるあの表情とおんなじだった。少しだけ悲しさを含んでる。

「退くんのこと待ってるから、早く帰ってきてね」

このままだったらずっとふたりでいれて、なまえくんが望んだ通りになるのに。それでも背中を押してくれる君はきっと、悩みながらも俺とおんなじ答えを出していたんだろうか。
あえて多くは語らないその唇にキスをすれば、なんだか最後の別れのようで変な感じ。
ちゃんと帰ってくるよ、本当の姿で君と一緒にいたいから。

ふたりぼっちの世界から開いた扉は、長い夢から覚めるようだった。

 
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はじめ