君から見た世界

あれからぱったりと姿を見せなくなってしまった。
かれこれ1週間ちかく彼を見ていない。

マヨボロを買いに行ってもあの路地に彼はいない、あそこの2階からカメラを向けていない、団子屋さんの奥の席に座っていない、どこにもいないんだ。
嫌いだなんて言うんじゃなかった。
1番言ってはいけないことを言ってしまった。


さすがに心配になった俺は、なまえくんの家に向かう。
自分から嫌いって言っといて家に押しかけるなんて何やってんだろうと自分でも思うけど、それほどまでになまえくんは俺の心のなかに入りこんでいるんだ。
本当はそんなことしなくてももう俺はなまえくんのことを、と素直に伝えられていたら。



チャイムをならしても案の定出てこない、きっと中にはいるんだろう。
そう思って試しにドアに手をかければカチャリと音を立てながら開いていった。
これはわざとなのか、不用心なのか…。

一声かけて中に入ると、前とは明らかに違う光景に思わずヒェッと情けない声が出てしまう。
壁中に俺の写真が貼られていたのだ。
なまえくんはカメラを持ってる日もあったからまさかとは思ったけど、流石にこれに対する心の準備はできていなかったよ…。
写真にうつる俺は全部目線が外れていて、これがなまえくんから見た世界だったんだろう。
本当は俺、なまえくんのことちゃんと見てたんだけどね。


歩き進めていくとこないだお世話になったばかりの寝室にたどり着く。
こんもりと丸くなった布団はそこになまえくんがいることを教えてくれた。
布団をゆっくりはいでいくとうずくまってグズグズ言っている姿を見つけた俺は、なまえくんを抱きかかえて胸におさめる。

「あーあ、もうこんなに泣きはらして」
「う……、さがる、くん…」

なまえくんはとにかく弱々しくて、俺にあかくなった目元をゆっくり撫でられながら、すこし枯れてしまった声を出していた。
さがるくん、すき、すきだよって。
ぽろぽろとこぼれる涙をすくってもきりがなくて、ぎゅうっと強くなまえくんの体をだきしめることにした。

「ばかだなぁ、俺はなまえくんのこと好きだよ」
「すき、すきだからこのまま……死んじゃいたい…もう、いやだ……すきなのに、」

目をつむったまま、死にたいなんて言うなまえくんがあまりにも苦しくて、そんな言葉をききたくなくて、俺はその唇をふさいだ。

「あ、ったか……い?え、なんで…さがるく、ん?」
「やっとこっち見てくれたね」
「なんでここに…、え…?夢じゃない?いま、キス…?」
「これで死なないでくれる?」

目を見開いて驚いた顔をしたかと思えば、勢いよく俺の胸に頭をぐりぐりと押し付けて、とってもちいさな声で聞こえた言葉。

「……僕のこと、嫌いでしょ?」
「自分のことを大事にしないなまえくんは悪い子だけど、俺はとっくになまえくんのこと好きだよ」
「はじめて好きになったのに、ッ……キスまで、退くんにされたら、もう僕……退くんがいないと生きていけない……っ」
「うん、いいよ。俺のぜんぶあげるから、一緒に生きてね」

なまえくんと、俺は、やっと目があった。

 
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はじめ