わかるけどわからない

「ジミーのオナホ、本当にいたんだ」

それがなまえくんを見た旦那の第一声だった。
俺が反応するよりも早く「はい、オナホです」と返事をしてしまったなまえくん。
旦那はあまりにも素直すぎる姿にげらげら笑ってたが、俺は泣きながら「オナホじゃない…なまえくんは本気の恋人だよぉ…」と抱きしめることしか出来ず、たまさんはオナホという単語のデータをついに吸収した。

それが10分ほど前、屯所の玄関での出来事だった。

俺は給湯室で人数分のお茶を準備して、とぽとぽと流れる音を聴きながら「ストーカー兼処理係になろうかなって」と告げられた過去を思い出した。
体を差し出して繋ぎ止めようとするのは、未だに出会った頃のままなのかもしれない。
俺の手元を隣で見ながらお盆をぎゅっと持って、目が合えば顔で首をかしげるなまえくん。
この子のためにちゃんとしなきゃな、と思いながらお盆をもらって部屋へ運ぶ。

そしてそれぞれが席に着けば気の抜けた旦那の声と手を叩く音。

「ハイ、じゃあ時計回りに自己紹介からどうぞー」
「みょうじなまえです」
「山崎退です」
「たまです」
「進行を頼まれた万事屋銀ちゃんでーす。はいじゃあ早速だけどジミーは元々たまのことを愛して…」
「バカヤロウ!!言葉を選べえええ!!」
「え、なに言っちゃいけない感じ?あんなにストーカーみたいに気持ち悪かった過去を隠すの?それはどうかと思うよォ〜?この子に失礼じゃん、本当の自分をさらけ出せって。なっ」
「なっじゃねーよ!こちとら命がかかってんだよ!」
「そんくらい受け入れろ男だろ。テメーの心臓のひとつやふたつ差し出せって」
「俺のはいくらでもくれてやりますよ!なまえくんがショックで死んだらどうすんだ!」
「なになに過保護ォ?そんな大袈裟な…、あっ……………」

突然の沈黙。旦那は途端に目に見えるほどの汗をどばどばかきだした。
それもそのはず、なまえくんが首の傷をさすっている。しかも無表情で。
ここに至るまでにざっくりとは旦那に説明しているから、さすがにこの傷ができた経緯も知っている。つまり俺たちは今なまえくんに「もっかい自殺すんぞわかってんのか」と脅されている。もはや覇気で気絶できる。

「えっと〜なまえくん?今の冗談だからね、本気にしないでいいよぉ〜?そもそもたまとジミーの間にはなんもなかった!そう、なーんもなかったからまっさら!」
「銀時様、データと違うようです。お見合いの席では私の口から排出したあんぱんを召し…」
「黙ってろたま!余計なこと言うんじゃねえ!」

なまえくんがやっと口を開く。

「手料理、おいしかった?」

っっっうん?!これなんて答えるのが正解なのォオオ?!
目がマジになってるなまえくんの手をとって「君の手料理が一番だよ!」と伝えるのが良いのだろう。でも口から出されたものを食べました☆なんて言えるか?!いやなまえくんのもんじゃもイケる自信あるけどそういうことじゃない。旦那は机の下で俺の脚を蹴って急かす。まるで死刑宣告のようだ。

「まだ僕に言えないことがあるんだ」
「えっと……、」
「じゃあ万事屋さん、包み隠さず教えてください」

ぐるりと方向転換。旦那は「これ本当に正直に言っていいのォオオ?」と念飛ばしてきたから、今度は俺が旦那の足を蹴る番となる。「絶対正直に言うしかないですゥウウ!」と念を返したら「本当に本当?!命保障されてる?!」と念の念が飛ばされる。その間俺たちは足の蹴りあいをしていたが、たまさんが口を開いた途端足は動けなくなる。我々は諦めたのだ。

「ことの始まりは……」

そのデータの数々が放出されていく様子は走馬灯のようだった。いや実際たまさんが見た映像が俺たちの目の前に映し出されてるんだけど。俺が言った言葉も一言一句隠さずに晒されていく。さすがたまさんははいてくなからくりだなぁ〜(棒読み)
時折さすがにやばいと思った旦那がフォローを入れてくれるけどなまえくんの表情は一向に変わらない。

「……これで以上です」

すべてが映し出されたあと、なまえくんは机に頭を勢いよく打ち付けた。

「なまえくん?!」
「僕だって退くんの体から出たものなら上から下まで全部食べられるのに!毎日ご奉仕するし即ハメできるようにしてるのに!」
「即ハメってジミーおまえ……」
「俺がそうさせてるわけじゃないですから!なまえくんがサービス精神旺盛なだけです!」

むくりと顔をあげたなまえくんは、体育座りをして自分の世界に入り込む。ぶつぶつと唱えられた呪詛とともに。

「だいたい退くんは優しすぎるんだよ。だから僕だって嫌でも我慢しなきゃいけないことばっかりで、僕以外のご飯食べて欲しくないから内臓だって握りたいのに、そもそも僕以外を映す目もいやだし、誰かを助ける手だってかっこいいのに毎回嫉妬して嫌になるし、任務だってあのクソ副長が無茶させてくるから早く死んで総悟くんが副長になった方がいいのにくたばらないし、いっそ僕のお腹から生まれて僕だけと生きて、出生届も出さないで一緒に死んでくれたらいいのに……部屋から出したくない……」

「なにこのメンヘラやばいんだけど」
「へへ、かわいいですよね」
「いや死んでって言われてるけど?戸籍もねーけどォ?!もしかしてお前まで頭お花畑なの?」
「やだなあ、普通ですよ」

まだ呪いのような愛を吐き続けるなまえくんに寄り添うと、ぴくりと体が反応する。

「なまえくん。そもそも俺だって思ってること、あるんだよ」

耳元でそっとささやいた。

「閉じ込めたいって思ったの、君が初めてなんだけど」

笑ってる顔だけじゃない。
泣いてる顔も、困った顔も、怒った顔も、やらしい顔も全部が欲しい。こんなにも欲張った気持ちは君が初めてだ。
何を見ても、何をしても足りない。そんなこと今まで無かった。

「だから、責任取ってよ。一生俺のそばにいてください」
「…………さ、退くん!」
「なまえくん……!」

俺たちは手を取り合って、永遠を誓った。

「なあ、俺たち何見せられてんの?」
「結婚式用のムービー撮影をご依頼だったのでしょうか。撮影しておきます」
「ならぼったくってやるか」

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はじめ