それは本当だから

家に来ますか、なんて言われながらもそのまま連れて来られてしまった。
やましい気持ちがあるわけじゃないよ!本当だよ!まぁちょっと顔がかわいいんですけど!

すでに数日張り込んで彼を調べているし、この近くに一人暮らしだってことも、友人などと会っている様子もないことを知っている。
きっと声をかけたら家に来てって言われるなんてわかっていたし、もし何かあっても細い体の彼と鍛えている俺、あきらかに有利だった。

「退くんと僕が一緒の空間にいれるなんて、すっごくうれしいです!」
「急にお邪魔してごめんね。えっと、俺は君のことなんて呼んだら」
「 忘 れ た の ? 何度も何度も話しかけてくれたのになんでそんな初対面みたいなこと言うの?僕の名前呼びたくないから試してるんだ、僕は退くんの名前何度呼んでもたりないくらい何度も何度も呼びたいのになんで僕の名前は呼んでくれないの?もしかして過去の誰かと重なった?そんなの嫌だよ誰かのこと思い出すなら僕そいつのこと絶対許さない今すぐ片づけてくる」

やっべえええええええ!!!早速地雷踏んだ!!!!!!!!!!!!!!
君のなかでは初対面じゃない設定なんだね!!あと結構しゃべるんだね!!

「ご、ごめん!なまえくんだよね、ちゃんと覚えてるよ」
「…どうして僕の名前知ってるの?今日、はじめてちゃんと話したのに」

アッ早速詰んだ。何考えてるかまじわからねえ。

「なんて冗談ですよ。…今日来てくれた理由、本当はわかってるんです」

ひとめぼれで好きになって、どうしたらいいかわからなくて必死に追いかけていたこと。
友人どころか日常で話す人もいないし、俺の声にあわせて自分も声を出してみたら会話しているみたいでうれしかったこと。
それでも見ているだけでしあわせだったから、出来る限り近くにいたくて俺の行動を見ていたこと、そんなことをぽつぽつと話し始めた。

なんだかすこし健気に思えてしまったのは、俺がおかしいんだろうか…この子にはそういう魔力があるんだろうか…

なまえくんから聞いたことと、別途、調べれば調べるほど浮き彫りになったのは、この子の生活は本当に俺で成り立っているということだった。
ちゃんと正面からこの子を見たのは初めてだけど、かわいい顔してる。結構かわいい。
いい加減どうにかしなきゃいけないと思って声をかけたけれど、彼は単純にさびしい人間なのかもしれないなぁ。

「でも、退くんのぜんぶが好きだって、それは本当だから…好きでいてもいいですか?」

うるんだ目でこっちをみつめてくるなまえくんがかわいくて、俺は手を伸ばしていた。
この子にストーカーやめてもらおうと思ってたのになぁ。
 
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はじめ