誰が誰への愛してる

ある日ポストに届いていた封筒、その中には写真が何枚か入っていた。
歩きながらあくびしてた僕、カメラを構える僕、コンビニの袋を持って歩く僕、さまざまな僕がそこにはいた。
…………わあ、もしかして退くん、とうぶん仕事忙しいって言ってたのにいたずらしに来ちゃったのかな?
でもどうせなら僕じゃなくて退くんの写真が欲しかったな、と思いながらそれらを机の上に置いておいた。


あの写真が届いてから数日、今日もポストには僕の写真が入っていた。
しかも今まではなかった手紙が同封されている。
そこには「愛してる」とだけ書かれていて、その字はあきらかに退くんのものではなかったから残念だった。
でも、愛してるって誰が誰にだろう?
まさか僕が人に好かれることなんてありえないし、退くんが僕を好きって言ってくれたことすら未だに夢のようだから(もしかしたら本当に夢かもしれないけど)、頭のなかにハテナがたくさん浮かぶ。
もしかして退くんを好きな人からの嫌がらせだったらどうしよう!
もんもんとする頭は悪いことばっかり考えてしまって、退くんに会えたら全部吹き飛んじゃうのになって少し落ち込む。
そうだ!買い物だってしなきゃいけないし、退くんが近くでお仕事をしてるかもしれない!
玄関のドアを少しあけて周りをキョロキョロと見回し、誰もいないことを確認すると、そのまま外へ飛び出した。


いつも通りの道で退くんの姿を探しながら歩く。
いつもならあの場所はこの時間って決まってることもあるけど、退くんのお仕事が忙しい時期はなかなかその通りにはいかない。
はやく会いたいな、名前を呼んでもらいながらぎゅうって抱きしめて欲しいな、なんて退くんのことを考えている時だった。

「……なまえ、なまえ!」
「っだれですか?」

そこには見たことの無い男の人が立っている。
こちらに近づいてくるとそのまま僕の手をぎゅうっと握った。
わけも分からず困惑しながらもその手を振りほどこうとすると、僕の行動を制するかのようにそのまま抱きしめられてしまう。
いま僕が退くんにされたいことを、知らない人とこんな路地でどうして。

「なかなか外に出てこないから心配しちゃったよ」
「っいた、い…はなして!」
「一緒に帰ろうなまえ、これからは一緒だよ」
「何言って…」
「なまえは良い子だからどうしたらいいかわかるよね」

良い子ってなに?
僕はこれからどうなるの…?


その瞬間、目の前が真っ白に光り、この場に似合わない楽しそうな声がする。

「み〜ちゃった、み〜ちゃった、山崎に言ってやろ〜」

そこにはカメラを持ってニタリと笑う沖田さんがいた。
終わった、僕は何もしてないのに、嫌だ。
こんなことを退くんに知られたくないという気持ちだけが働いて思い切り男の体を突き飛ばす。

「沖田さんだめです!絶対にだめ!!」
「ザキのペットのくせに浮気たぁ、生意気でさァ」
「お願いです!言わないで!こんなの退くんに知られたら生きていけない!!」

沖田さんに縋るように泣きつくことしか出来ない僕は、退くんのことで頭がいっぱいでそもそもの原因を作った男の存在なんて忘れていた。
しかしカチャリと金属音が鳴ったことで引き戻され、今自分が置かれている状況を思い出す。
振り返って真っ先に見えたのは男の手から落ちたであろうナイフと、刀を握った沖田さんの姿だった。

「っと!あぶねーなァ、こんなもん振り回しやがって」
「え……な、にこれ?」

男は舌打ちをしたあと、僕のことをまっすぐ見つめて一言だけ置いて走り去った。
絶対迎えに行くから待っててね、と。

 
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はじめ