騒がしくなったスペース

事情聴取という形で真選組の屯所へ向かった。
初めての屯所がこんなことになるとは思ってもいなかったと少し上の空な僕を現実に引き戻すように、あの撮られた写真をひらひらとさせた沖田さんと、鋭い目つきをした土方さんと目が合う。

「いや〜犯人の顔写っててよかったですぜ、みょうじは俺に感謝しな」
「…あの、その写真、捨てて欲しいです」
「これもれっきとした証拠だ、諦めろ。この写真のお前を襲った奴に見覚えはあるか?」
「……ないです」
「しかも家に写真送り付けてくる奴にも心当たりがないときたか」

ここまで来たら話さざるをえなかった。
あの毎日のように届く写真のこと、手紙のことを。
あの人と会う前に届いていた新しい手紙には「真選組と関わるな」とあったけれど、てっきり退くんを好きな人からの嫌がらせだと思っていたし、まさか僕のことだとは思ってもいなかった。
せめて退くんがお仕事でいない間に解決してしまいたいけれど…。

「土方さん、俺ァこいつに見覚えがありやすぜ」
「本当か、総悟」
「前にザキと買い食いした時に舌打ちしてきやがったから覚えてやす。大江戸マートの奴でさァ」
「仕事中に買い食いすんな馬鹿」
「むしろ俺の買い食いのおかげですぜ、なぁみょうじ」

ふたりが確認を求めるように僕の方を見る。
せっかく沖田さんが気づいた手がかりだけど、僕は退くん以外まったく興味がないと言っても過言ではない。

「たしかによく大江戸マートは行きますけど、やっぱり誰かわからないです…」
「おめーいつもあそこでザキのこと見張ってんだろうが」
「ひぇ!退くん以外見てなくてごめんなさい!」

そんな僕たちのやりとりに付き合ってられないとでも言うかのように、土方さんは煙草に火をつけ、ため息とともに煙を吐き出す。

「まぁ、この様子からいくとお前に写真だの送り付けたのも同一人物だろう。今回は総悟がいたから助かったようなもんだが」
「みょうじは一生俺に感謝しろぃ」
「ありがとう、ございます…」
「とりあえず聴取はここまでだな」

事情聴取なんて初めて受けたからくたくただ。
早く帰って退くんの写真を見ながら癒されたい、家で撮った退くんの動画も見たい、退くんにはやく会いたい。
帰り道も家にいるのもちょっと怖いけど、退くんが家にいるって妄想で乗り切って行くしかないかなぁなんて不安な気持ちを奮い立たせた時だった。


「ねぇトシ〜!山崎の彼女来てるって本当?!」

ドタバタと走る音とともに扉を勢いよく開けたのは局長の近藤さんだった。
僕を見るなり目をまんまるにして、あれ?部屋間違えた?とキョロキョロする近藤さんに、土方さんの眉間のシワが少し濃くなる。

「…………何しに来たんだ」
「総悟から山崎の彼女が来てるって聞いてな!せっかく来てくれたなら挨拶をせねばと!」
「そーですぜ。近藤さんだけ仲間外れなんてひでーや」
「こいつは事情聴取で来ただけだ」
「え、そうなの?総悟、俺聞いてないよ」
「言ってないですからねィ」

一気に騒がしくなった部屋でじっと俯いていると、近藤さんが手を差し伸べてくれた。

「何があったかはまだ聞いとらんが、彼女…いや彼氏?というのは君かな。いつもうちの山崎が世話になってるね。局長の近藤だ、よろしく」
「ぼ、ぼく……みょうじなまえ、です」
「で、山崎とはどこで出会ったの!おじさんに教えて!」

手をとった瞬間、近藤さんに圧倒されて何も言えなくなってしまった僕を遮るのは、ますます眉間のシワが濃くなった土方さんだった。

「こいつはもう帰すとこだ、家から証拠品も回収しなきゃなんねぇしな」
「じゃあ今日泊まってく?山崎はいないけどおじさん達とお話でもしようよォ」
「おい、近藤さん……」
「だってこのまま帰すのは可哀想だよトシ!ちゃんとお世話するから!ね、お願い!」
「犬じゃねーんだからよ、ただテメーが構いたいだけじゃねーか」
「こうなったらゴリラに犬が飼えるか検証してみやしょう。じゃ、俺は二匹の世話で忙しいんで証拠品取りに行ってこいよ土方」
「待って俺もペット枠?ゴリラなの?ゴリラがペットなの?」


更にぎゃあぎゃあと騒がしくなるなか、僕は屯所に泊まるということに頭がぐるぐるしてしまう。
今までもこれからもこんな機会あるの?本当に?
退くんがいないことだけがとっっっっっても残念で悔やんでしまうけれど、でも退くんの私生活を生で覗き見れることに僕は興奮していた。

「あ、あの!もし泊まっていいなら退くんが普段使ってる布団って借りれたりしますか?できたら枕とか着替えとかまるごと退くんのをお願いしたいんですけどだめですか?最近ずっと会えてなくて本当に死にそうで退くん補給したいんです!」
「いや聴取もそんくらいハキハキしゃべれや」
 
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はじめ