最近なんとなく肩が重い。単純に肩こりかと思ってマッサージや医薬品を試しても全然改善できなかった。どうしたものかと困り果てて、インターネットから出した答えが除霊だった。

「あの妖怪大王を倒した……って妖怪大王ってなんだろう」

なんとなく凄そうな謳い文句と、古めかしいサイトが逆に力がありそうだと感じた。もともと霊や超能力の類は信じていない。産まれてから出会ったことがないからだ。しかし今はダメ元ですがるしかない。霊幻先生なら何とかしてくれることを祈って。



「じゃあ本気のCコースで……」

霊幻先生の少しうさんくさい笑顔と妙に説得力のある言葉から、1番効果があるコースがいいのだろうと思って12000円をかけることにした。霊幻先生は僕のことを下から上まで眺めたあと「ふむ」と呟いて、隣にいるお茶を出してくれた助手の方と話し出す。

「わかるか?芹沢、お前の実力見せてみろ」
「は、はい!」

なるほど、助手さんがやってくれるのか。となると霊幻先生の手を下すほどのものじゃないのかも。

「じょ、除霊は俺が担当させていただきます!よろしくお願いいたします!」
「よろしくお願いします」

まだ対応に慣れていないのか助手さんは顔が強ばっている。なんだかこっちまで緊張しちゃうな。助手さんに言われるがまま目を瞑って、数秒。

「ふう、これでもう大丈夫です。そこそこ強いのがついてましたね」
「どうですか?肩が軽くなったでしょう」
「え、もう終わり……?あれ?なんか、楽かも」

「良かったですね」と助手さんが微笑む。あ、好きかも。
恋に落ちるってこういうことなんだ。



僕はあの日、助手さんこと芹沢さんのことを好きになってしまった。どうやって帰ってきたのか覚えてないくらい、ずっとぽわぽわした気持ちに浮かされている。夜中眠れなくなって、日中もずっとそのことだけ考えて、食事の量も減った。また会いたい。でも会うためにはなにか相談事を持ち込まなくてはいけない。



「みょうじさん、今回はどうされましたか?」
「えっと、また肩が重くて……」

僕が思いついたのはまた肩こりを霊の仕業にすることだった。霊幻さんは考え事をしているのか、唇をトントンと叩いたあと答えを出した。嘘ってバレちゃったかな。

「わかりました。今回は私が除霊しましょう」
「あ、芹沢さんじゃないんですね……」
「芹沢をご指名でしたか。今回は私の専門になるのですがよろしいでしょうか」
「いえ、お願いします」

そりゃあいつも芹沢さんって訳じゃないよね。霊幻先生が直々に除霊してくれるならその方がいいんだろうけど、僕はやましい気持ちを抱えてるから残念ではあった。

「霊幻さん、この方には何も取り憑いてないんじゃ……」
「お前は目に見えるものだけが全てだと思っていないか?」
「………………ハッ!」

施術台に案内されて、2人に見下ろされながら横になる。少し恥ずかしいな。

「では早速、始めていきますね」

霊幻先生の手が身体の至る所を推していく。マッサージみたいなものかな。少しずつぽかぽかして固かった身体が解れていく気がした。でもこんな風に触られたことないから変に緊張するというか、首元をなぞられる度にぞわぞわして唇を噛み締める。声出ちゃうかも。

「……っ、ふぅ…………ひうっ」
「っと、申し訳ない」
「いえ、ちょっとびっくりして……先生の好きにしてください」

僕の言葉に先生の動きが少し止まったような。いや、気のせいか。芹沢さんは何やら必死にメモをとっていて、いずれは施術も担当してくれるのかもしれない。あの大きい手で触られたら……って今変な気持ちになったらまずい。施術が終わって軽くなった身体で相談所を後にすると、頭の中は次の予約をどう取るかでいっぱいだった。

そして、今回わかったことは霊が憑いてないとだめかもしれないってことだった。芹沢さんと話す機会を多くするには霊幻先生のお手を煩わせるほどではないことが重要かもしれない。とりあえず近場の心霊スポットに行って「僕に取り憑いてください!」と呟いてみることにする。肝試しのように奥まで歩き回ったりする度胸はないからできるだけ手前の方で。正直効くのかわからなかったけど、実践してみるとなんとなく体が重くなった気がして、相談所に向かう理由は出来た。しかも今回は効果があったのかマッサージみたいな施術じゃなかった。そうか、こうすれば相談所に来れそうだ。

霊幻先生と芹沢さんが僕の行動に気づかない訳ないのに、この時の僕はただ芹沢さんに会いたい一心だった。