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「で、あの後どうだったんだよ」

前のめりになって俺たちのことを聞き出そうとする上司、霊幻さんはずいぶんとこの関係性が気になるらしい。

「別になまえくんとは何も…」
「いつのまにか名前まで!何もないってことはないだろ!」
「でも友達だって言われました」
「嫌われたくなくて気ィ使ってたんだろ。どうせ友達って言いながら顔真っ赤にしてたろうし」
「何でわかるんですか?!俺たちのこと見てました?!」
「何でもお見通しなんだよ」

いわゆる恋バナと思いきや、いつかのように携帯の画面も見ず、俺にくれるアドバイスは的確で、言われたままメモを取って自分となまえくんの行動を分析をする。彼は喜んでいただろうか、嫌じゃなかっただろうか、ひとつずつ紙に組み立てられたパズルの答えを解いていく。きっとここにくるお客さんも、こんな気持ちで霊幻さんを頼るのだろう。そして傍で見守ってくれていたこの人だからこその言葉。

「つまりだ、さっさと告っちまえ」
「え?!告る?!」
「成功率は99.9パーセントだ。てか見てるこっちが焦れったいんだよ」
「0.1パーセント残すんだ…でも霊幻さんは言ってましたよね。直ぐに答えを出す必要もないだろうって」
「今のお前なら大丈夫だ。ちゃんとみょうじを知った上で出した結果だからな」

告白、言わば思いを伝える行為を俺が…?心が落ち着かせる間もなく扉が開く音、それは噂をしていた彼が来たことを意味する。なまえくんはいつも通り、袋いっぱいにお菓子を買ってきていた。上機嫌な霊幻さんの声を聞きながら、ありがたく受け取る時にうっかり手が触れてしまう。

「霊幻さん!なまえくんの手に触れてしまいました!」
「おう、お礼言っとけよー」
「そうじゃなくてですね…!」

だってあの手に触れたんだ。観覧車の頂上で繋いだあの日のことを思い出して、一気に顔が熱くなる。

「大丈夫ですか…?」

俺を気にかけてくれるなまえくんの優しさに、胸の鼓動が早くなって息ができなくなる。風邪でもない、部屋が暑いわけでもない、こんな感情は初めてだ。またも耐えきれなくなった俺はそっと耳打ちをする。

「霊幻さん!世界がキラキラして見えます!」
「おう、それが恋ってやつだ」

なんにも気づいていないなまえくんは「今日はなんだか仲が良いですね」と笑いかけてくれて、どうにか感情を抑えようと大きく手を振って「なんともないよ」なんてわかりきったことを言う。大袈裟に身振り手振りを交えたせいでポケットから、ひらりと舞った物にも気付かずに。

「なにか落としました、よ…」

拾い上げられたメモに書かれた、あからさまな言葉の数々。言い訳をしようもなくて、ふたりで見つめる先はただひとり。

「「霊幻さぁん…」」
「お前らなぁ…ま、後は簡単な事務作業だけだし終いにするか。すぐで悪いけどとっとと帰れよ」

「ふたり一緒にな」と付け足された言葉に、なまえくんも顔を赤らめる。先にふたりで相談所を出て歩いても、うまい言葉が見つからない。でもまだ一緒にはいたいからって、わざと歩幅だけはゆったりと進めていた。

「このあと雨が降るみたいですよ」
「そ、そうなんだ…!」

どんよりとした曇り空でも輝いて見えるのは、隣になまえくんがいるから。どうにか会話を続けられるように話題を捻り出しても、声を聞くだけでいちいち高鳴る胸。 恋をするとこんなにも世界は変わって見えるのか。

「あ、早速降ってきちゃいましたね」

ぽつぽつと顔に当たり始めた雫に、行き先を悩むよりも早く、なまえくんは鞄から取り出したそれを開いて差してくれる。

「念のため持って来て良かったです」

いつか教えてもらった部屋の延長。今の俺は力の使い方も知って、外に出ることだって、頼れる仲間だって増えた。それでもこの子はひとつの傘に入ってくれる。ただそれだけの行為が俺にとって、特別なパーソナルスペースに入り込んだような感覚すらして、ごく自然と言葉になっていた。

「なまえくんが好きだ」

ふたりだけの部屋で呟いた言葉はしっかりと耳に届いたようで、じわじわと追いついた現実が顔を赤くしていく。それを素直に可愛いと思うのは、やっぱりこの子を好きだからだ。

「俺やっとわかったんだ。初めてで何も知らないからって優しさに甘えてた。君はずっとこんな気持ちだったんだね」
「そんな…」
「なまえくんの気持ちも、もう一度聞かせて欲しいな」

さ迷わせても最後は俺の所へ戻ってくる瞳。涙を滲ませながら唇を噛み締めて、覚悟を決めたようにこれが夢でないことを感じている。

「僕も好きです。初めて会ったあの日からずっと克也さんが好き」

溢れ出した感情のままなまえくんを抱きしめれば、驚いて手から傘が離れていく。雨に打たれたって、この部屋を出たって、たしかに温もりを感じる君がいるから平気なんだ。

「わあああ克也さん!待ってください!」
「ごめん、嬉しくて…でも離したくないな。恋ってすごい…」
「びしょ濡れになっちゃいます!それにみんなが見てるから…っ!」

俺はようやくここが外であることと、周りの目線に気づいたのだった。



「芹沢って意外と肉食系だったのか?」
「面目ない…なまえくんのこととなると、どうも熱中してしまうようで……」
「すみません、霊幻さん…」

出ていったばっかりで告白していることに驚きつつ、いや半ば飽きれられていたものの、相談所に引き返せば霊幻さんはタオルと共に暖かく迎えてくれた。

「ようやく付き合ってくれて安心したぜ」
「付き合う?!」
「告ってOKなら付き合う一択だろ、なぁ」

なまえくんも恥ずかしそうにタオルで顔を隠しているけれど、小さくうなずいている。そうか、告白して両思いになったら付き合うのか。本来なら手を繋ぐのはこれからだったのかもしれない。名前で呼ぶのはセーフだったのか?まだまだわからないことだらけだ。

「この後はどうしたらいいんでしょうか…学校行ってなかったんで、正しい順番がわからなくてですね…」
「大事なことなんて学校じゃ教えてくれねえんだよ!」

霊幻さんは携帯を開いてカンニングしながら次のステップを教えてくれるけれど、付き合ったらどこに出かけるのが良いか、場所を羅列するのみで「これ以上はお前らにはまだ早い」と早々に切り上げた。映画も遊園地もお祭りもすべて行ってしまったからだろうか。キスという文字が見えた気がするけれど…

「くれぐれも悲しませるようなことのないように」
「はい!恋に仕事に勉強も頑張ります!」
「その意気だ。ところでみょうじ、うちの大事な従業員を骨抜きにしてくれたんだ。覚悟はできてるんだろうな」

じりじりとにじり寄る霊幻さんの迫力に圧倒されて、壁際まで追い詰められたみょうじくんはぷるぷると震えて可哀想なほど。でもその口から決意を聞いてみたいと、「頑張って!」と両手を握って念を込めれば小さな声が聞こえてくる。

「克也さんを…幸せにします……」
「なまえくん…!俺もだよ!」

霊幻さんが小さな声で「リア充爆発しろ!」と呟いていたのは、聞かなかったことにしておこう。