創造
本戦前に昼休憩を挟むことになり、万癒は脂質を蓄えるためヒレステーキやハンバーグ、天ぷらなどを頼んでいた。
騎馬戦で思った以上に脂質を消費してしまった。本戦が控えているのもあって、万癒は割増しで食事に苦労していた。
「あの……医刀さん、少しよろしいでしょうか?」
「あ? 八百万と……耳郎? なんか用か」
「実は相澤先生からの言伝で、午後から女子はチア服を着て応援合戦をしなくてはならないそうで……」
「なんだそれ。それ本当に相澤先生が言ったのか?」
「私たちも直接聞いたわけじゃないんだけど、上鳴たちが言伝頼まれてたみたいなんだよね」
「上鳴ぃ? あいつ悪ノリすっから信用できねえんだが……」
「それはそう。でも実際チア服着てる人たちいるし……嘘とも言えないなって……」
確かに、チア服を着た女子がちらほらいた。万癒とて、雄英の全女子生徒を把握しているわけではない。本当にその応援合戦とやらがないとも言い切れなかった。
まぁ、とにもかくにも、まずは腹ごしらえからである。トレーを持ったまま立っている八百万たちに、席を詰めて座れるようにした。
「てか医刀って、見かけによらず結構食べるんだね」
「食わなきゃ個性使いもんになんねぇからな」
「医刀さんも創造されてますものね。私は脂質を変換して創造しているのですが、医刀さんもでしょうか?」
「……おめぇも
「やはりそうでしたか! 脂質の多いものを頼んでらしたので、きっとそうではないかと……同じですわね!」
「同じ……同じねぇ……」
何故か嬉しそうにプリプリしている八百万に対し、万癒は引き攣った笑みを浮かべることしかできなかった。
同じなんてとんでもない。脂質を使うのこそ同じかもしれないが、その体質は対極と言っていいだろう。万癒は個性には恵まれたが、体質に恵まれなかった。だから
もし体質に恵まれていたのなら、ヒーローになろうとは思わなかっただろう。きっと今もひたすらメスを握ってスパスパ切っていた。
「……でも、なんか大分無理して食べてるように見えるの、気のせい……?」
「気のせいじゃねぇよ……私は脂質の多いもんが大っ嫌いなんだ……」
「まぁ……! それは大変な思いをなさっているのですね……でも、そういった日頃の積み重ねがあるからこそ、医刀さんは素晴らしいお医者様なのですわね」
「…………おまえ、なんだ。さっきからちょっと、ぐいぐい来んな?」
「す、すみませんっ! 私ったらつい……!」
「ヤオモモ、医刀のファンなんだって」
「ファンだぁ……?」
「じ、耳郎さん……!」
寝耳に水だった。八百万はそれはもう恥ずかしそうにしている。なんか、ガチっぽかった。
八百万はもじもじとしつつも、それでも意を決したように、両手を顔の前で小さく握って「好きですっ!」と告白してきた。ちょっと勢いに引いた。
「お、おう……一応聞くが、なんでそうなった」
「私……初めてだったんです。こんなに頭が良くて、堂々とした振る舞いに、気品を兼ねそろえた同い年の女性に会うのは……!」
「待てそれは誰のことだ。頭がいいのも堂々としてるのも分かるが、気品……? 私は大分自分が柄の悪い人間だという自覚があるぞ」
思わず耳郎もそれにはうんうん頷いた。間違いなく口が悪い方だ。それに今は禁煙しているとはいえ、向こうにいるときは煙草とお酒に世話になってきた。立派な法律違反であったが、それがなきゃやっていられない日々というものがあったのだ。
けれど八百万はそれはもう食い気味に否定した。
「いいえ!! 医刀さんのそれは愛の鞭なのです!!」
「愛の鞭……おい、耳郎……」
「私に聞かないで……私も医刀と同じ気持ちだから……」
「何手も先を読み、どんな状況にも焦らず冷静に対処し、人を救うことに重きを置く……。そればかりか、医刀さんは子どもの頃から社会に貢献なさっている才媛です。緑谷さんに少々当たりが厳しく見えますが、それも緑谷さんの身体を慮ってのことだと、私は理解しておりますので……!!」
「…………そうか」
「(諦めたっ)」
何だか、万癒は一気に何もかもがどうでもよくなった。
同じ脂質を創造に変換するという共通点の他にも、この年にしては頭が良いなと思っていただけに、何だか色々自分の目を疑った。ライバル意識とまではいかなくとも、少なからず意識していた人物が
そんな感じで八百万の話に死んだ目で適当に相槌を打っていたら、何がどうしてこうなったのか、自分もチア服を着ることになってしまっていた。
「いや、私は……」
「やはり、私が創ったものでは医刀さんを満足させることなど――」
「着ればいいんだろ着れば!」
このポンコツピュアセレブ、意外とメンタルが弱そうだった。
他の女子生徒も着ているし、半ばやけくそで万癒が着替えると、それはそれは幸せそうであった。
「とってもお似合いですわ! 医刀さん!」
「……そーかよ」
お前の目は節穴か、こういうのは私は似合わねぇと思いつつ、口には出さなかった。口に出していたらそんなことはないとまたしてもマシンガントークを食らうところだっただろう、賢明な判断であった。
もうどうとでもなれ、死んだ目でそんなことを思いつつ、午後の部が始まろうとしていた。