非戦闘員なわけが

『最終種目発表の前に、予選落ちの皆へ朗報だ! あくまで体育祭! ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ! 本場アメリカからのチアリーダーも呼んで、一層盛り上げ……ん? アリャ?』
「なーにやってんだ……?」
『どーしたA組!!?』

完全に嵌められた。チア服を着ていたのは、雄英がわざわざアメリカから呼んだチアリーダーだったのだ。
相澤の言伝なんてものはなく、上鳴と峰田が共謀した結果であった。


「峰田さん上鳴さん!! 騙しましたわね!?」
「アホだろアイツら……」
「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」
「これから上鳴と峰田の言伝とやらは疑ってかかったがよさそうだな。可哀想に、奴らは今この瞬間私たちの信頼を無くしたということだ。失った信頼は取り戻すのに苦労するぞ」
「医刀さんが言うと言葉の重みがすごいね……」
「社会とはそういうもんだ」
「まァ本戦まで時間空くし、張り詰めててもシンドイしさ……いいんじゃない!!? やったろ!!」
「透ちゃん好きね」

乗り気な葉隠に万癒は良い奴だなと思う。
レクリエーション前に本戦のくじ引きが行われようとしていた。本戦内容は1対1のガチバトル。トーナメント形式で進めらることになる。







「芦戸か」
「医刀かぁ……! あたしちょっと医刀に親近感あるだよね!」
「親近感? 特になくねぇか?」
「ほら、最初の戦闘訓練でさ、轟の氷溶かしてたじゃん! アタシの個性も酸だし、ちょっと戦ってみたかったんだ!」
「……そうか」

確かに胃液も酸である。言われてみればそうだなと万癒も納得した。
くじの前に3位の心操チームだった尾白と庄田が棄権を申し入れていた。いわく、騎馬戦の記憶がないらしい。心操の個性らしいが、その心操は一回戦緑谷と当たる。もう一人同じチームだったサポート科の発目はそのまま進出することにしていた。
繰り上がって鉄哲チームから鉄哲と塩崎が出場。これで本戦と相成った。


「緑谷」
「な、なに、医刀さん」
「……怪我、すんなよ」
「うっ……努力します!」

そう言って会場に行こうと移動する緑谷の後姿を一瞥した。
相変わらずのクソナードぶりだったが、返事としてはそれしかないだろうなとも思う。まだコントロールできていない。個性を持て余している。聞いた感じ心操の個性は洗脳系だろうが、それがどう転ぶだろう。まぁ、無傷では終わらないだろうなと万癒はため息を吐くのだった。







案の定緑谷は怪我をした。心操の洗脳にかかって、そのまま退場するところだったのだが……個性を暴発させ、洗脳を解いてそのまま取っ組み合いになり、身体能力で勝った緑谷が心操を場外にして進出した。
左手の薬指と人差し指だけで済んだのを喜べばいいのか、怒ればいいのか、もう万癒は判断がつかなかった。


「緑谷のこと心配?」
「心配ねぇ……心配というより、呆れが勝るな。いつになったらあいつは何もぶっ壊れずに個性が使えるようになるんだか……」

ため息混じりに答える万癒に、上鳴は少しだけ面白くなかった。
良くも悪くも、万癒が最も気にかけているクラスメイトは緑谷だろう。万癒のことが好きなのかと聞かれると、そうだとはまだ言えないけれど、気になる女子ではあるのだ。

そうして轟と瀬呂の試合が終わって、轟の個性で濡れた会場を乾かしているとき、思い切って上鳴はお願いをしてみた。


「なぁ、医刀」
「なんだ」
「俺の試合、応援してほしいんだけど……してくれたりする?」
「? 言われずとも、身内おまえを応援するが」
「マジか! ありがとう!! 万癒さんやっぱ最高だわ!」
「おまえその万癒さんっての――」
「ああっと! もう行くから! じゃっ、応援よろしく!!」
「あ、おい……行きやがった」

何だか幸せな勘違いが生まれていた。万癒はよく知らないB組より、同じクラスである上鳴を応援するという意味だったのだが、ちゃんとそのような意味では伝わっていなかった。
おまけにさっさと行ってしまった。万癒はこの年代の男女で、名前を呼び合うのは大分レアケースなのではと考えていた。自分がアメリカにいる間に、日本の文化はまた変わったのだろうか。そんなことを思いつつ、上鳴と塩崎の試合を見ていた――一瞬で終わったのだが。







「うぇ……あれ」
「気が付いたか。アホ面」
「あ、あれ? 俺……」
「塩崎に瞬殺されてたぞ。おまえはワット数上げすぎでアホになってたんだ」
「ええっ……あの顔全国放送されちゃったの……!? はっず!」
「そんなこと気にする余裕があんならもう大丈夫だな。私はもう行くぞ。そろそろ出番だ」
「マジ!? 診ててくれたん!? あんがとなっ、頑張れ! 医刀!」
「……ん」

万癒は万癒さんじゃねぇんだな、と内心で首を傾げていた。医刀呼びに戻っているし、男子高校生のノリはよくわからない。







『立て続けにいくぜぇ第五試合! 敏腕医師! 正真正銘のお医者さんだぜ! ヒーロー科医刀万癒!!』
「医者らしい戦いは見せれそうにねぇけどな」
バーサス、あの角からなんかでんの!? ねぇでんの!? ヒーロー科芦戸三奈!!』
「手加減しないよ! 医刀!」
「上等。んな舐めた真似したらぶっ殺す」

試合が始まると、両者とも一気に距離を詰めた。これに驚いた者は多く、芦戸もてっきり迎撃されると思っていただけに、想定外だった。
けれど、近づいてこられるなら願ってもみないことだ。酸の濃度を調節して万癒の進行方向に発射し、転倒を狙う。


「おまえの個性で、対人戦闘をするならいい判断だ……けど、相手が悪ぃな」
『おっとぉ!? 医刀! 創造したパイプを軸に一気に移動! 高跳びか!!?』
「う、うっそぉ!!?」
「ちっと痛ぇぞ……我慢しな!!」
「っ、(速い上に長すぎて避けきれなっ)うぎゃあっ」
『クリティカルヒット!! これは痛い!! 今のって棒術的なあれか!? なんだ医刀のやつ、非戦闘員じゃなかったのか!?』
「あいつは戦える医者だよ。人体を熟知している上に、戦い慣れしてる・・・・・・・。わりと手強い奴だ」
「芦戸さん、立てる?」
「む、むり……痛い……」
「わかったわ。芦戸さん戦闘不能! 二回戦進出医刀さん!」

宣言されてすぐ万癒は芦戸に駆け寄り、「悪かったな。ちょっと診せろ」と簡単な触診をした。異常はなかったため、時間経過と共に治るだろう。そのまま搬送ロボに任せ、席に戻ることにした。

観客席の方ではこの戦いで発覚した、意外な万癒の身体能力に緑谷の分析が進んでいた。


「医刀さんも芦戸さんも、体力テストの時に上位に食い込んでた。お医者さんっていうのに気が取られがちだけど、普通に運動神経といい、戦闘能力高いんだよな……あれ、そういえば……射程圏外・・・・って、どういう意味だろう……?」


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