クソもじゃ
緑谷と轟の試合が始まろうとしていた。
轟の宣戦布告から始まった雄英体育祭。タイマンで白黒つくことになるだろう。
『今回の雄英体育祭、両者トップクラスの成績!! まさしく両雄並び立ち、今!! 緑谷
「……暗い顔してんね」
「あ?」
「すんげぇ険しい顔。美人がそういう顔してっとマジ怖ぇよ」
「…………?」
「……万癒さん意外と天然なとこあるよね!」
「あ゛?」
「凄まないで! 怖いから! 万癒さん美人だから割増しで怖いの!! わかって!!」
「…………そうか?」
「そう!!」
「…………善処する」
よくは理解できなかったが、万癒はとりあえず表情に気をつけようとはした。
上鳴も上鳴で上手い具合に「暗い顔してるのが心配」と伝えられず、かっこつかねぇと頭を抱えた。かっこつけようとするから伝わらないともいう。
だが、万癒が気をつけようと思えたのはその一瞬で、開幕大氷結に指を一本ずつ犠牲にして迎撃する緑谷にを見れば、そんなのは吹っ飛んでしまった。
「あんの……バカッ」
「万癒さん、顔」
上鳴が何か言っているが、聞いちゃいなかった。
現状緑谷には
何がそんなに緑谷を掻き立てるのかはわからないが、壊れた指を更に酷使して轟に発破をかけている。あれでは治るものも治らない。
けれど、あれほど左は使わないとこだわっていた轟が左を解放した。緑谷が轟を変えたのだろう。変えるために……緑谷は……。
「…………」
「ちょっと医刀どこ行くん!? まだ試合終わってねぇよ!?」
「――もう終わる。私はやることやりに行く」
「やることって……」
「……私は
そう言って歩いていく万癒の背中には……哀愁を感じた。
「やっぱあんたと関係あったのか。オールマイト先生」
「!? 医刀少女!?」
「……別に詮索する気はねぇよ。
「あ、いや……その、君はいったいどこまで勘づいて……」
「……そうだな。あんたの個性と緑谷の個性が
「…………いつ、それを……」
「USJの襲撃があった日、リカバリーガールに追い出される直前に、トゥルーフォームのあんたと緑谷が仕切りもなしに並んでたのを見た。そんで、USJであんたを守るために緑谷は飛び出した、極めつけにあの個性。もう……答えは出てんだろ」
「うっ、ぐうの音も出ない」
「大事なことなんだろ。ならもっと気をつけろよ。緑谷贔屓してんのバレてんぞ」
それにまたオールマイトはガーンとショックを受けていた。自分ではあれでも気をつけていたようだ。いやバレバレだが。ちょっと抜けているのだ。
「私はこれから緑谷の処置に入るよ。あれじゃ……あのまま治癒できねぇだろうから」
万癒の予想通り、緑谷には手術の必要があった。
わりと落ち着いた様子の万癒に、オールマイトは内心でさすが医刀少女。冷静だ……。と感心していたのが……保健室に入るなりそれは豹変した。
「おいこのクソもじゃがよォオオ!! まぁた怪我して一件落着かよ!! 誰が治すと思ってんだよクソがこの野郎おおおお!!!」
「ひぃっ、すみませんっすみませんっ!」
「謝って済むと思ってんのか!? 謝ったらおめぇの怪我は治んのかぁ!!?」
「治りませんすみませんっ!」
――ブチギレだった。
リカバリーガールも止めようとして……やめた。たまにはいい薬だろう。ある意味万癒は主治医である。怒りはごもっともであり、こうして怪我をすることで怒って、心配してくれる人間がいると理解するのも、緑谷に必要なことだと思ったからだ。
オールマイトはあまりの万癒の荒ぶりぶりにあわわわわ、と口に手を当てて慌てていた。
そうしてギャーギャー万癒にブチギレられていると、緑谷と親交のあるA組の面々と、万癒の様子を見に来た上鳴がひょこっと扉から顔を出し、今にも緑谷の胸倉を掴まんと荒れ狂う万癒に上鳴が慌てて止めに入った。
「怒るのも分かるけどっ万癒さん落ち着いて!」
「上鳴っ、おめぇさっきから気になってんだけどよ!? その万癒さんてのなんだぁ!!」
「えええっダメだった!? 万癒ってちょーいい名前だと思うよ!!」
「あ!? いい名前だから呼んだって!?」
「え、あ……いやそれは……まぁそうなんだけど!!」
「んじゃ勝手にしろ!」
思わぬお許しが出て上鳴の表情がぱっと輝いた。
余談だが、万癒と名付けたのは偉大なる父であり、父を尊敬していた万癒にとって悪くない答えであったため、許すことにしたのだ。
このやりとりを目撃した麗日は、じゃあ私も今度から万癒ちゃんって呼ぼうと便乗することにした。
「…………はぁ、とにもかくにも、こいつは今から手術だ」
「「「「シュジュツーー!!?」」」」
「安心しろ。完全完璧な医者が執刀する。万が一の心配はねぇ。わかったら戻れ」
そういって他の面々を半ば強引に追い出すと、緑谷がぽつり、と話し出した。
「すみません……果たせなかった……。黙っていれば……轟くんにあんなことを言っておいて、僕は……」
「……君は、彼に何かもたらそうとしていた」
「……確かに……轟くん……悲しすぎて……余計なお世話を……考えてしまった……でも違うんです……それ以上にあの時、僕はただ……悔しかった」
「……!」
「周りも先も……見えなくなってた……ごめんなさい……」
「確かに残念な結果だ。馬鹿をしたと言われても、仕方のない結果だ……でもな。余計なお世話ってのは、ヒーローの本質でもある」
万癒は、緑谷出久という人間の根底に触れた気がした。
余計なお世話と、悔しいという気持ち。クソナード極めたりといった人物ながら、そこにはヒーローとしての本質が確かにあった。
――クソもじゃのくせに。
誰よりも遅れたスタートを切っていた。個性もろくに制御できず自損ばかり。手のかかる患者でしかない。
でも、なぜだろう……目が離せないのは。