レディ・パルフェ

体育祭明けの登校が今日だったわけだが、万癒は大分登校に苦戦していた。


「体育祭見てました! その年でお医者さんってすごいですね!!」
「別嬪さんだねぇ、綺麗な女医さんに診てもらえるとそれだけで嬉しいもんだよ」
「てかてか、戦闘もできちゃうってすごくて! クールだし、堂々としてるし、お姉様って感じで!! ちょっとあの、「小鳥ちゃん」って言ってもらえます……!?」
「小鳥ちゃん……?」
「キャー!!」
「(いや今のでいいんかい)」

万癒はもうドッと疲れていた。小鳥ちゃんってどういう意味だ、という意での聞き返しにすぎなかったのに、大層満足された。お姉様だなんだ言っているが、そう年が違うようには見えない。多分若者のそういうノリなんだろうなと万癒は無理やり納得した。
その後も声を掛けられることは続き、改めて雄英ってすごいんだなと感じた。







「あ、おはよー万癒……って、顔死んでね!?」
「上鳴……おめぇは逆に活き活きしてんな?」
「めっちゃ声かけられてさ! なんか有名人になった気分! そういうのアガ――んねぇみたいだな? 万癒は」
「よくわからんノリだった。日本の文化は独特みてぇだな」
「日本の文化……? なにがあったん?」
「……お姉様だなんだ……小鳥ちゃんって言ってくれって言われた」
「ブハッ!! こ、小鳥ちゃん……!!」
「笑いたきゃ笑え……私はもう何が何だかわからん」

その後、じゃあ遠慮なくと言わんばかりに笑う上鳴の声に引き寄せられ、耳郎や八百万も話に加わって来た。
「小鳥ちゃん」より「お姉様」という方に引っ張られたのか、八百万がそわっとしながら「お姉様……」と万癒を見てきたので、さすがに「それはやめろ」と止めた。残念そうにしていたが、これでお姉様なんて定着してみろ、それこそ上下関係が明確に築かれてしまう。
体育祭でそれを自覚した万癒は、その姿勢を改善しようと静かに奮闘していたのだった。







体育祭で貰ったプロの指名数はまずまずだった。ヒーラーはどこでも重宝される。すでに医師免許を取得し、経験を積んだ医者だというのも美味しかったのだろう。体育祭の順位こそベスト8であったが、その指名数は3位という快挙であった。


「すげぇじゃん万癒! 3番目!」
「といっても轟と爆豪とは桁がちげぇよ。そういうおめぇも瞬殺された割には結構もらえてんな」
「うっ……まぁ、俺レアだし……!!」

万癒もそれには納得した。電気系の個性もまた、重宝される。瞬殺されても需要はあるだろう。
ちらっと八百万の方を見ると、随分沈んでいるようだった。八百万の創造は万能だが、創るのに時間がかかりすぎる。本戦を見据えるのは当たり前だが、例年サシで勝負していることを鑑みると、八百万は第一種目と第二種目でしっかり見せて・・・・・・・いくほうがよかったかもなと思った。







職場体験に合わせ、ヒーロー情報学でヒーロー名を考案するになったはいいが、先陣を切ったのが青山で、その青山が短文でヒーロー名を出してしまい、続く芦戸もエイリアンクイーンと考案し、一気に雰囲気が大喜利になってしまった。
それを戻してくれたのが蛙吹で、フロッピーという大変親しみやすいヒーロー名を出してくれたのだった。


「うあ〜考えてねんだよな、まだ俺」
「つけたげよっか「ジャミングウェイ」」
「「武器よさらば」とかのヘミングウェイもじりか! インテリっぽい! カッケェ!!」
「〜〜〜〜いやっ、折角強いのにブフッ! すぐ……ウェイってなるじゃん……!?」
「耳郎おまえさァふざけんなよ!」
「フハッ、いいじゃねぇかそれ。似合ってるぞ」
「万癒まで!!」

ヒアヒーローイヤホンジャックと発表した耳郎に続き、万癒も進み出た。
ヒーロー名を考えていたわけではないが、もしつけるのであればこれしかないと思った、その名は。


「ヒーラーヒーロー、レディ・パルフェ。どのような状況下でも、完全完璧パーフェクトに遂行しよう」
「……カッケェ」
「あなたらしい名前ね」
「私の個性は手術オペレーションだからな。あらゆる術を用いて必ず救う。それがレディ・パルフェだ」

その名は実に万癒に相応しいものだった。
その後も続々と決まり、爆豪はネーミングセンス的なあれで再考になっていた。そして、緑谷の名前は「デク」だった。これには万癒も爆豪がつけた蔑称だったと把握していたため、怪訝に思ったが「ある人に意味を変えられた」と言った緑谷に……おまえを変える人もいるんだな、と。当たり前のことなのに万癒は驚いた。いつも緑谷は変える側で、言ったって聞きゃしないヤツだったから……きっとそれに驚いただけだ。







どこに職場体験に行くかと盛り上がる中で、万癒は緑谷の方に自然と耳が傾いていた。聞こうと思って聞いているのではない。断じてそうではないけれど、ブツブツブツブツうるさいのだ。聞いてもいないのに聞こえてくる。きっとこういうところが爆豪も気に障るのだろう。あれで随分繊細な五感を持っていそうだった。


「万癒はどこ行くか決めたん? 有名どころとか指名来てそうじゃん?」
「……エッジショットのところだ」
「NO.5じゃん!! いいとこ来てんね!?」
「順位だけならベストジーニストからも来てたが……私のためになるのはエッジショットだな」
「え、そうなん?」
「ざっと経歴は調べてある。エッジショットは秘密主義でプライベートなことは出てこなかったが、彼はやけに人体を熟知している。その点で言えば、私の職場体験先にこれ以上のところはない」
「なるほど……医者だもんな」

上鳴と話をしている間も、緑谷が空気椅子をしていたり、空気椅子の利点と「今のままじゃダメなんだ」という言葉が聞こえてきていた。
職場体験の間はおそらくどんな怪我を負っても万癒は急行できない。これは心配なのか、それとも信用していないだけなのか。はたまた別のなにかか。それが何か分からないまま、職場体験が始まろうとしていた。


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