ヒーローとは
「君を指名したのは他でもない、医刀万癒。いや、今はレディ・パルフェだったな。君は紛れもなく優秀だ。その口の悪さに目をつぶれば、一見目立った欠点などないだろう」
「(……周りくでぇな?)本題をどうぞ」
「君はどこまでも医者だ。それではヒーローにはなれない」
「……は?」
何を言われるかと思えば。万癒はヒーローになれないという言葉に、怪訝な顔をする。けれど、エッジショットは至って真剣であった。
「……お言葉ですがエッジショット。私は実際にこの手で、何百、何千という患者を診てきました。そして実際に治してきた実績もある。雄英での成績もわりと優秀な方です。それなのになれないとは? どういった意味で?」
「君は医者であることにこだわっている。医者とヒーローは似て異なるものだ。それを理解していなければ、君は最高の医者どまりだ」
「……別にそれで――」
「この職場体験でヒーローがなんたるか、何がヒーローたらしめるのか、それを教授しよう」
「……よろしくお願いします」
万癒のエッジショットへの第一印象は「偉そうなヤツ」だった。好感度はわりと低かった。
万癒にとって、ヒーロー免許を取るというのは、自身が最高の医者になる
フライトドクターだったとき、事件現場に急行してその場で施術を施した。それらと大差ない、ただ……敵と交戦するという仕事が増えただけ。ヒーローとして前に出れる分、前線で処置もできる。ヒーローを救えればその分救える人間の数が増える。体質に恵まれない万癒がより多くを救うためにとった手段。それがヒーローになることだった。それ以下でも、それ以上でもないその免許の価値について、考えたことなんてなかった。
――だって、医刀万癒はどこまでも医者だったから。
職場体験が始まって早数日。エッジショットはさすがNO.5というだけあって素晴らしい活躍を見せていた。正直万癒の出番などない。音速を超える速さで身体を細くできる個性というのは便利なもので、敵退治にしろ、救助にしろ、もうこいつ一人でいいのでは? といった具合であった。
途中で緑谷から位置情報だけ送られ、それが今話題のヒーロー殺しステインがいる保須であったため、まさかとは思ったが遠すぎてどうすることもできなかった。
一応安否の確認だけはしたが、轟と飯田揃って無事ではあるらしい。怪我はしたようだが。「職場体験中でもやっぱおまえはどこかしらぶっ壊すんだな」と嫌味だけは送った。逆に言えばそれしかできなかったけれど。
そうして残りの職場体験にいそしんでいるわけだが、はて、これはいかに。
「……」
「何か言いたげな様子」
「いえ、別に」
「構わん。思ったことは言いなさい」
「では遠慮なく。……これって、ヒーロー活動と関係があるんですか」
連れてこられたのはファッションショーが行われる会場であった。ヒーロー活動と関係があるようには全く見えない。万癒は疑いの目でエッジショットを見た。
「ヒーロー活動とはただ敵を退治して、人を物理的に救助することだけではない」
「……はぁ」
「なぜこの超人社会にヒーローが生まれたのか、分かるかレディ・パルフェ」
「そんなの、超常が日常になって、架空が現実となり、秩序が荒らされたからだろ。警察が個性を使った武を用いないよう定めたがために、その穴を埋めたのがヒーロー。本来なら非難されるべきそれを「ヒーロー」なんて持ち上げて、特別を作って今に至る」
「それも一つの解釈だ。だが、だからこそ我々はヒーローらしく在らねばならない。かつての
「……で、その安寧を齎すのにこれが必要だと」
「そういうことだ」
万癒は言葉にこそ出さなかったが、んなわけがねぇと思っていた。
ヒーローとファッションをより密接につなげ、業界の活性化を狙うというのは本当のようで、他にも数多くのプロヒーローが出演していた。
その中に、髪型もコスチュームも変わっているが、見知ったクラスメイトの姿を見つけた。
「そこにいるのは爆豪か。おまえも連れてこられてたんだな」
「あ゛!? おまえ……白髪女」
「白髪じゃねぇよ! 医刀万癒だ。それとも名前も覚えらんねぇくらいバカだったか? 診てやろうか?」
「バカじゃねぇわ!! わざとに決まってんだろ!!」
「じゃあ言ってみろよ。たった今教えたばっかだが、バカならわかんねぇかなぁ……」
「舐めんな!! 医刀だろ!! わかっとるわそんくらい!!」
「んじゃこれからそう呼べよ。呼べなくなったら診てやろう」
「このクソ医者……!!」
「もう忘れたか?」
「覚えとるわクソ医刀!!!」
クソは余計だが、爆豪のこれは口癖のようなものだろう、と万癒は寛大な心で許してやることにしたが、爆豪の方は万癒の飄々とした様子にムカツク女だと怒りを抱いていた。
爆豪にとって、医刀万癒という存在はただ医者の女というだけだった……体育祭までは。まさに悪鬼。完全に喧嘩慣れした人間の身のこなしだった。個性無しの喧嘩ならかなり上位に食い込むだろう。
「惜しいな。医刀も獲得したかったんだが……彼女は別のところに行ったらしい」
「(白髪女……?)」
「彼女もまた、随分心が荒んでいる。良いところに行っていればいいんだが……腐らせるには惜しい人材だ」
爆豪はベストジーニストが残念がっていたのを思い出す。どうやら万癒はエッジショットのもとに職場体験に来ているらしい。それで
だが二人は知らない。ベストジーニストとエッジショットが学生時代手芸愛好会なるものに属し、親交が深いことなど。お互いが受け入れた職場体験生について、何だかんだ盛り上がっているなど……知らない。