ツケ
万癒の職場体験は無事に終わった。何か身になることがあったかというと、特筆すべきことはなかった。ただプロが普段やっていることを目にしただけ。
何がヒーローたらしめるのかを教授するとは言われたものの、これと言って万癒が感じたことはなかった。あえて言うなら、ヒーローってそんなこともすんだな、というファッションショーなどの仕事についての感想くらいであった。
職場体験明けの教室は賑わっていた。万癒は爆豪の格好には敢えて触れなかったが、クラスメイトたちが弄らないはずがない。洗っても癖がついて直らなかったそうだが、瀬呂と切島に弄られて怒りで爆発すると元に戻っていたため、爆豪の毛根は随分特殊らしい。そういう体質なら治療方法も変わってくるため、今度診せてもらおうと思う。
それはそれとして、気になるのはやはりステインと交戦した三人組だった。
「飯田、後遺症が残ったそうだな。診てやろうか」
「いや……これは俺の未熟さが招いたことだ。それを忘れないためにも、本当のヒーローになれるまで残しておこうと思う」
「……そうか。その時は言えよ。私より腕のいい医者はいねぇからな」
「是非お願いしよう」
万癒は、本当のヒーローとは何だろうと思う。エッジショットがあんなことを言ったせいで、微妙に引っかかっていた。
「中間テスト……
中間テストの結果が出た。万癒は大学院までとっくに修了済みである。雄英の偏差値がいくら高かろうとも、苦戦するものなどなかった。当然のように満点を叩き出していたのだが、自分と同じ点数を取る人間がいるとは思いもしなかった。
「おまえか、八百万」
「は、はいっ! 私座学は得意なのです。幼い頃から個性の関係で調べ物が多く……お勉強が習慣になっているのですわ」
「……おめぇの創造条件って、なんだ?」
「まず、構造を理解していないものは創れません。脂質を原子に変換して創造しているので、頭の中で工程を踏んで初めて創造できますの」
「……は? じゃあなんだ、おまえは大砲だなんだ、全部原子から列挙して創ってんのか……?」
「え、ええ。ですので大きなものや複雑なものほど時間が……その点、医刀さんの創造速度は流石としか言いようがありませんわ……あんなに早く複雑で大きなものをぽんっとお出しになるんですもの。やはり私では医刀さんの足元にも――」
「んなわけねぇだろ……ナマ言ってんな」
「え……?」
万癒は何か、打ちのめされたような気分になった。原子の列挙から創造を始めているのなら、あの速度での創造は
体質において自身より八百万の方が優秀だというのはわかっていた。自分は体質に
それなのに、そんな八百万に慕われているのが……自分なんて万癒の足元にも及ばないと謙遜する八百万が――酷く気持ち悪かった。
「おめぇ……気持ち悪ぃな」
「あ……」
みるみるうちに八百万の顔が絶望に染まった。万癒の明確な拒絶。それは万癒を慕っている八百万にとって、死刑宣告のようなものだった。
「ちょっと医刀! そんな言い方……!!」
「うっせぇ……邪魔だ、どけ」
「待て待て待て、万癒さん今のは万癒さんが悪いぞ! ヤオモモに謝んなって!」
「あ? 本当のこと言っただけだろ」
「ちょっと、あんたどうしたの……口は悪かったけど、そんな感じじゃなかったじゃん!」
ホームルームが終わった直後で、まだクラスメイトの多くが残っていた。
近くにいた耳郎がまず万癒を咎め、気にせず帰ろうとする万癒を上鳴が止めた。耳郎がどこか心配を含んだ表情をしていた。八百万は泣いてるし、周りもなんだなんだと騒がしくて、なんだか全部が鬱陶しかった。
「そんな感じってなんだよ。私は前からこういう奴だが」
「ウソ! あんたは私たちのこと良くも悪くも相手にしてなかったじゃん!」
「おめぇ、」
「気付かないわけないでしょ。そりゃ医刀はお医者さんだもん。ウチらが遊んでるような頃から社会に出て、立派に働いてる。同い年でも、子どもに見えるのは分かるよ」
「……ああ、そうだな。どいつもこいつもガキで、同じレベルになるこたぁなかったもんな」
「ちょちょ、医刀ほんとどうしたの? 荒れすぎだって!」
「落ち着け医刀、なんか虫の居所悪かった感じか? 八百万も……大丈夫か?」
「は、はい……すみません、私のせいでこんな大事に……」
「……おめぇのせいじゃねぇだろ」
万癒は全てにうんざりしていた。
耳郎に気付かれていたことも。
他のクラスメイトたちに責め立てられるより心配されていることも。
八つ当たりした八百万が逆に責任を感じていることも。
これは――万癒が無意識に周りを見下してきた結果でしかなかった。
「クソがっ」
「あ、医刀……!」
「俺が行くっ」
「ちょっ、上鳴!? そっとしといた方がいいんじゃない!?」
「いいから! 俺に任せて! おまえらはヤオモモのフォロー頼んだ!」
クラスメイトたちの騒がしい声を気にも留めず、万癒はスタスタと帰路についた。去っていく万癒の後姿を上鳴が追う。
二人のいなくなった教室で、八百万をフォローしていると、爆豪がそれはもう乱暴に扉を開けては閉めて帰っていくのだった。