やっぱふざけんじゃねぇ

上鳴による「万癒初めての挫折おめでとう」の会が終わって次の日、万癒は朝のホームルームが始まる直前、つまりクラスメイトが全員集まった中で八百万の席まで行き、頭を下げた。


「悪かった」
「!! そ、そんな医刀さん……!! 頭を上げて下さいましっ、私の方こそ医刀さんの気分を害してしま――」
「おめぇは謝んな。悪いのは私だろ」
「はいっ! いえ、そんなっ」

あわあわと慌てる八百万と不器用な万癒の間に入ったのは、やはり耳郎だった。


「医刀ー! 顔怖いって。もっと笑いなよ」
「あ?」
「そーそー、それじゃ患者もビビっちまうって! 笑顔笑顔!」
「ああん?」
「ほら、こんな感じ!」
「……いや、葉隠のはわかんねぇわ」
「医刀ー、こうだよこう!」
「…………」

賑やかし組の便乗により、万癒は大変不本意ながらも、自身が巻き起こした騒動であるため、笑顔を作ることにした。それを真正面で見た八百万は「は、はわ……!」とそれはもう特大のファンサを受けたように感極まっていた。


「え!? どんなんだったの!? 医刀ー! もういっかーい!!」
「しねぇよ」
「万癒さんこっちにもスマイルくれ!」
「やだね」
「ええー! 気になる! 百ちゃんどんな感じだったのー!? 教えてーー!!」
「そ、それはもう……まるで女神のような……私の語彙力ではとても表現しきれませんわ……!」
「ヤオモモの語彙力でも無理とか誰も無理じゃん!」

まぁ、そんなこんなでとりあえず解決するのだった。
自身の未熟さを受け入れ、でも負けねぇぞと奮い立つ。万癒はもう次へと歩き出していた。







早いものでもう期末試験である。職場体験以降、緑谷は力の制御を覚えたようで万癒の世話になる機会は格段に減っていた。それを良いぞこの野郎と思いつつ、手がかかる患者が自立を見せ始めたのに……何故だか気づいたら緑谷を目で追っている自分に、万癒は首を傾げていた。

――そこまで警戒しなくても、もういいはずだけどな。

そんな疑問を抱えつつ、林間合宿を賭けた期末試験が始まろうとしていた。――まぁ、十中八九赤点でも林間合宿はあるんだろうが。
ちなみに座学で泣きついてきた上鳴は八百万に押し付けた。面倒くさかったというのもあるが、自分が教えるのに向いていないというのを理解していたからだ。解説しようにもおそらく小難しいことを話してしまう。その点で言えば分子構造まで把握している八百万である。教えるのにも向いているだろうと体よく押し付けたのだった。


「轟、一通り申し分ないが全体的に力押しのきらいがあります。そして八百万は万能ですが咄嗟の判断力や応用力に欠ける。よって俺が個性≠消し、近接戦闘で弱みを突きます」
「そう、でもここに医刀さんがいるのは?」
「医刀は何にしても優秀です。ですが一つ挙げるとすると、八百万に対し比較的強い感情を抱いています。それが吉と出るか凶とでるか……今のうちにぶつけておいて損はないでしょう」

体育祭以降、自信の喪失が見られる八百万と、自身の無意識の姿勢に気付いた万癒。そして類似点のある個性と、頭脳明晰という共通点。博打のようなものではあるが、好転するにも暗転するにも、早い内にするに越したことはない。
相澤のその判断で、万癒たちは三人で相澤に挑むことになったのだった。







「八百万! 何でもいい、常に何か小物を創りつづけろ。創れなくなったら相澤先生が近くにいると考えろ。この試験、どっちが先に相手を見つけるかだ。視認出来次第俺が引きつける。そしたら医刀と八百万は脱出ゲートへ突っ走れ」
「あ? おまえ正気か? おめぇのは発動型だろ。視認された時点で稼ぐ時間もなくチェックメイトだわ!」
「じゃあなんかあんのか」
「あるに決まってんだろ! いいか、私のも八百万のも、創造しちまったもんは先生の抹消対象外、予め準備もできるってわけだ。つまりこの中で一番の雑魚はおまえ!! 仕切ってんじゃねぇ!!」

素早い轟の指示に待ったをかけたのは万癒だった。
前よりクラスメイトを対等な人間としてみようとしている万癒は、些か更に口が悪くなっていた。けれど轟は別段気にした風もなく素直に謝る。


「ワリィ。じゃあおまえらが相澤先生の相手をするのか?」
「違うそうじゃねぇ! 第一ゲートまで――おい、八百万聞いてんのか?」
「あ、はいっ」
「何か出せっつったが、おまえ何だそれ」
「ロシアの人形、マトリョーシカですわ」
「……おまえそれ、何も考えずに出してんのか?」
「ええ……これは私が生まれて初めて創ったものでして、これなら何も考えずとも出せますわ」
「…………そうか」

口ぶりから相当練習したのだろうということはわかった。分子構造を理解していないと創造できないのに、絶えずぽんぽんと創造されていくマトリョーシカに、やっぱこいつすげぇなと思う。
もしかしたら、自分の策より良いものを八百万なら――そうだとしたら、万癒は……。


「なぁ、おまえ――」
「さすがですわね、医刀さんはもちろん、轟さんも」
「あ……?」
「何が」
「相澤先生への対策をすぐ打ち出すのもそうですが、ベストを即決できる判断力です」
「(……医刀に反論されたばかりなんだが……)普通だろ」
「普通……ですか……」
「八百万? おめぇさっきから何を……」
「医刀さんも枠は違えど、同じ推薦組。スタートは同じはずでしたのに……ヒーローとしての実技に於いて、私は特筆すべき結果を何も残せていません。騎馬戦は轟さんの指示下についただけ。本戦は為す術なく常闇さんに敗退でした。同じ創造でも……医刀さんは互角の戦いを繰り広げてましたのに……」

万癒はまたもやイラっとするのを感じた。完全に何言ってんだコイツ状態だった。
折角、折角自分が色々気持ちを飲み込んで、八百万の意見を聞こうとした矢先にこれだ。出端をくじかれたばかりか、意味の分からないことをダラダラグチグチと、もうブチギレ寸前だった。


「おっまえなぁぁ!!?」
「私、またなにか医刀さんの気に障ることを……!?」
「! 八百万、マトリョーシカ……来るぞ!!」
「すみませ……」
「バカ迎撃じゃねぇ! 回避だ!!」

相澤の個性で先手をとられた。ならばなにがなんでも回避しなくてならない。捕縛布で拘束されたら、それこそ勝機がなくなる。
けれどやはりそこは経験の差が出る。さすがはアングラ系ヒーロー。回避しようにも当たりがつかない上に、相澤は素早かった。


「医刀正解。でも身体がついて来てないな」
「っ……!」
「医刀! っ八百万行け!」
「ハッ……あっ」
「あ、そういうアレか。なら……」

万癒は急所こそ避けたものの、それなりに重いのを貰った。
八百万を行かせようとする轟に、バカ野郎……と思うが、三人捕まるよりはマシだ。
くだらねぇ自分語りに時間を取られ過ぎた。八百万、この失態はちゃんと取り返せよ、と去っていく八百万の背中を見ていた。


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