それぞれの心中
「大分連携が取れてないみたいだな。もっとちゃんと三人で話し合った方がよかったんじゃないか」
万癒は内心私はちゃんとしようとしたよと思ったが、本当にそうだろうかとも思う。
最初から八百万の意見を聞く気になっていたわけじゃなかった。そもそも最初に提案したのは轟だ。この時点で万癒はまだ課題を乗り越えていないのに気付く。
――いつまで私は……保護者気取りでいるんだ。
一番最初に自分が作戦を伝えては、答えをやるようなもんだと思ってるんじゃないか。だから第一声は必ず誰かに発言させる。騎馬戦でもそうだった。緑谷と常闇がどうするこうすると言っている間に、見落としを万癒が指摘しただけだ。
今回だって、最初から自分が発言していれば作戦会議の時間も十分とれたはずで、くだらないプライドを捨てれば八百万の意見だってちゃんと聞けたはずだった。直っていない。自分はもう、クラスメイトを対等な奴らとして見ると決めたのに。
「悪かった、医刀。おまえの話も俺はちゃんと聞いてやれてなかった」
「は……」
「おまえは爆豪みてぇに気が強いから、すぐ反論してくれたけど――」
「おいまて誰が爆豪だって!? あそこまで私は尖ってねぇぞ!?」
「そうか? 結構似てると思うぞ」
「どこがだ!!」
「そういうすぐ怒鳴るところが……」
「それは悪ぃな! でもこれが私の素だ! 慣れろ!!」
「わかった」
素直にわかったと納得する轟に、いや素直かっ、と内心で思う。
でも素直だから相澤に言われたことに思い至って、すぐに謝ってきたのだ。轟は……良い奴だった。
万癒も少し考えて、ここで自分も言わなきゃ余計ダサいなと思い、口を開いた。
「私も悪かった。最初から考えてたのに、おまえたちのどっちかが発言するの待ってたんだと思う。おまえたちのこと……対等に扱うって決めたのに……私はまだちゃんとできてない。その上、おまえが考えた作戦にもダメ出しばっかした。……ごめん」
「……おまえ……意外と繊細なんだな。知らなかった」
「……は? 誰が繊細だって!?」
「? 繊細だろ。俺はまったく気にしてねぇ。むしろおまえの指摘は納得することばかりだった。俺はおまえのこと……頭が良くて、人を思いやれる優しい奴だって思ってる」
意外な轟の告白に、万癒はぽかん、と呆けた顔をした。
自分が繊細だと言われたのも、頭はいいはともかく、人を思いやれる優しい奴だって言われたのも。意味が分からなかった。
まてやそれ誰のこと言っとんだと怒鳴りたいのを堪え、冷静に聞いた。
「なんでそう思うんだ……?」
「頭がいいのは――」
「それはわかってる。私は頭がいい。だがその繊細と人を思いやれるなんちゃらだよ」
「……最初の戦闘訓練で、おまえ葉隠を真っ先に救けにいったろ。それは葉隠が服着てなかったから急いだんだよな? 俺を迎え撃つことも出来たはずだ。おまえの個性なら……核を守ることだって出来ただろ。俺らの妨害をしようと思えばできた。でもしなかった……最初の戦闘訓練で少なからず高揚してる中で、その選択ができたのはすげぇと思う」
「…………おまえ、めっちゃ喋るな? 勝手に無口なヤツだと思ってたわ」
「……喋ろうと思ってんだ。俺はみんなよりスタートが遅れちまったから……少しでも並べるように、発言したり、会話をしたいって思ってる」
体育祭以降の轟は憑き物が落ちたような、穏やかな顔をしていた。人を殺しそうな顔をしていたのに、今ではぽやにもほどがある。
でもそれはきっと、緑谷戦できっかけがあったからだろう。あの歪んだ手の結果がこれならば、そうならば。
「緑谷が……おまえを変えたのか」
「ああ。あいつがめちゃくちゃやって、俺の中で燻ってたもん全部ぶっ壊しちまった。でもおかげで気づけたことがたくさんあって……俺はなりたいもんをやっと追いかけられてんだ」
「……」
「医刀は緑谷が心配なんだろ?」
「……は!? 誰が誰を心配してるって!?」
「違うのか? だっておまえ、いつも緑谷見てんだろ」
微塵も疑っていない轟の目に万癒は何言ってんだこいつ、とカッとなるのを感じた。緑谷を心配? 誰が? 私が? そんなのありえない。何を言っても聞きゃしない、いつもどこかしらぶっ壊して、ボロボロになって、おどおどしてる癖に、絶対引かない。余計なお世話ばっかして、自分のことを顧みないクソナードなんぞを心配するだなんて──。
「…………だっれがあのクソナードなんぞの心配するかああああ!!!」
「お。わり、違ったか」
「違うわボケ!!」
「あ、おいっ、無理すんな!」
もうやけくそだった。さっさとここから脱出するために無理矢理創造することにした。
創造対策だろう、相澤が万癒の手も足もほぼ露出したところがないように捕縛布で簀巻きにしていた。だがこんなもんはクソくらえ、八百万と合流してちゃんと話を聞くためにも……プルスウルトラ精神でトランポリンを創造しようとしたところに八百万が来た。
「医刀さんっ、轟さ――」
「八百万」
「轟さん!?」
「戻ってくんのがおせぇ!!」
「も、申し訳ありません!!」
八百万はやはり右往左往したままだった。判断がつかない、何が最善なのかがわからない。
万癒はぐっと歯を食いしばった。
「八百万!! 何かあるんだよな?」
「(っ……先越されたクソがああああ!!)」
またもや出端をくじかれた。轟にあって自分にはないもの、それは間違いなく素直さだろう。
素直に思ったことを口にできる轟と、プライドが邪魔をする万癒。そりゃ先を越されるのも頷けた。
「悪い聞くべきだった「これでいいか?」って。何かあるんだよな!?」
「でも轟さんの策が通用しなかったのに、私の考えなんて……」
「いいから早くしろ! そういうのはおまえの方が適任だったって言ってるんだ! 学級委員決めたときおまえ二票だったろ! 一票は俺が入れた! そういうことに長けた奴だと思ったからだ!」
「っ……でもっ、でもっ……私よりずっと医刀さんの方が――」
轟の言葉で立ち直りのきっかけを与えられるも、そばに
本気で八百万は医刀万癒を慕っている。初めて出会った同い年の才媛。明晰な頭脳と堂々とした立ち振る舞い、人を救うことに重きを置いた……憧れの人。
それにブチギレたのは――やはり万癒だった。
「おまえはよぉ!! ったくよぉ!! いい加減にしやがれ!! んなしょーもねぇことで挫折してんじゃねぇぞ!!」
「医刀さっ」
「いいかっ一度しか言わねぇ!! おまえは私より頭がいい!! 私が願ってやまねぇ体質も持ってる!! そんなおめぇがっ、んなたった一度の挫折で腐ってんじゃねぇよ!! 根性見せろ!!!」
「医刀さんなにをっ、そんなはず――」
「八百万! 私はおまえの格上の存在でもなんでもねぇ!! おまえの体質と頭脳に、私は生まれて初めて打ちのめされた!! おかげでこちとら「初めての挫折おめでとう」なんざ祝われる始末だクソふざけんな!!」
「え、え……」
「私に辛酸を味あわせたおめぇが……無能なわけねぇだろ!! これ以上私を失望させんな! 八百万百!! おめぇは
「……!!!」
格上の存在だと思っていた轟と万癒の信頼。応えなければと八百万は思う。この信頼に応えなければ、自分を信じてくれている二人に報いなければ。
迫って来る相澤を映した八百万の目には……もう迷いは消えていた。
「医刀さん轟さん、目を閉じて!!」
「んだこれ……くっ……(閃光弾……!!)」
「ハッ、いいもん創りやがる」
「あります! 医刀さん轟さん! 私ありますの! 相澤先生に勝利するとっておきのオペレーションが!!」
反撃の狼煙が上がった。
ここから