その少女、医者につき
世界総人口の約8割が何らかの特異体質≠ナある超人社会。
「超常」は「日常」に。
「
かつて誰もが空想し憧れた一つの職業「ヒーロー」が脚光を浴びていた。
けれど、変わったのはそれだけではない。
超常現象に伴い、社会も在り方を変え、
医刀万癒はその代表的人物で、齢一桁にして医師免許を取得し、既に多くの経験を積んだ奇跡の医者である。その並外れた頭脳とどんな悲惨な現場にも怯まぬ豪胆さ、そして何より彼女の個性は素晴らしいものだった。
個性:
頭に叩き込んだ術式を完全完璧に遂行する個性。彼女の膨大な医療知識とその個性の組み合わせは数々の奇跡を巻き起こし、まさに神の御業。医療の申し子と称される。
また、医療に必要なものは
「――では、これからよろしく、医刀くん!」
「ええ。よろしくお願いします、根津校長」
万癒はより多くの人間を効率よく救うため、ヒーロー免許を取るためにアメリカから日本に帰国していた。
ヒーローの本場であるアメリカでそのまま免許を取るという選択肢もあったが、世界最高のヒーローオールマイトは日本にある雄英高校ヒーロー科の卒業生らしい。数多くの有名ヒーローを今なお輩出しているその実績は信頼に値する。よって万癒は完全無欠のヒーラーヒーローになるために、医学界からの紹介を受け、特別推薦枠で入学を果たすことになった。
それに伴い、いくつか契約が結ばれる。
ひとつ、すでに雄英にはリカバリーガールがいるが、医師としての腕を鈍らせないためにも医療に従事すること。
ふたつ、来年度からあるヒーローが雄英高校の教師に赴任する。そのヒーローの秘密を守り、治療にあたること。
みっつ、ここでは自分も一人の生徒として、青春を謳歌すること。
正直万癒には最後のはどうでもよかったが、青春にも色々な形がある。
精々勉学に励んで青春を謳歌することにしようと思うのだった。
「あなたが私の患者ですか。――オールマイト」
「……医刀少女、だったね。えっと、これは……」
「さっそく診させていただきますよ。話はそれからです」
「そ、そう? よろしくお願いするよ」
新しく赴任する、万癒が治療するヒーローはあのオールマイトだった。
筋肉隆々だった面影はなく、まるでガイコツのような男。オールマイトだと言われても、冗談にしか思えない変化であったが、本人だった。
万癒はテキパキと身体を診ていく。呼吸器官半壊、胃の全摘出。その後の度重なる手術の負担と後遺症。
正直万癒に言わせれば、よくこの状態になってもヒーローやってんなという感想しかなかった。今すぐ引退して休めというのが結論だが、この平和の象徴は聞かないだろうというのもわかっていた。
「結論から言いますと、完治は無理です」
「まぁ、そうだろうね……多くの医者が匙を投げてきた。私の身体のことは私が一番よく――」
「待てやコラ。完治はって言ってんだろ。治せねぇとは言ってねぇ」
「え、あ、そうなの!?」
「ただし、大手術になる上、絶対安静にする期間が最低半年はいります。本当にこれは最低期間です。病院に缶詰め状態。いかなる理由があろうと外に出ることも許されない。おまけにリハビリは地獄。それらを乗り越えられるんなら……今よりは活動時間が伸びます」
「ちなみに……どれくらい?」
「今3時間でしたね。それを4倍にします。12時間、半日です」
「12時間……」
今の4倍という数字は確かに魅力的に思えた。けれど、そこまで行くのに最低半年外部との接触をほぼ絶たれることになる。逆に半年を費やしても、たったの12時間しか活動できないともいえる。
それはオールマイトにとって、敵犯罪への警鐘たる平和の象徴として受け入れがたいことであり、それに何より……オールマイトは後継に出会ってしまっていた。育てねばならない、次の平和の象徴を。ワン・フォー・オールの全てをあの少年へ。
「……やめるんですね」
「……うん。せっかくの提案なのに……すまない」
「かまいません。ヒーローって大体そういうものですから。二つ返事で頷く人のが珍しいです」
「本当に、随分多くの患者を診てきたようだね。まだ若いのに立派だ」
「……父の教育がよかったので。まぁ、気が変わったら言ってください」
「ああ、その時はよろしく頼むよ」
果たしてその時は来るのか。万癒は来そうにないなと内心でため息を吐いた。
オールマイトはどこまでもヒーローだ。そうとしか在れないというように、平和の象徴としてひた走っている。
もし、この人が万癒に頼むのなら……その時は、この人が平和の象徴を誰かに託せたときなのかもしれない。そんな誰かがいるとも思えなかったけれど。
「一応、これからは私があなたの主治医です。どうぞよろしく、オールマイト先生」
「ああ、よろしく頼むよ……えっと、医刀先生?」
「普段は好きに呼んでくれてかまいませんよ。私もあなたの生徒なので」
「あはは、先生で患者で、医者で生徒……か。随分ややこしくなっちゃったなぁ」
「その内慣れますよ」
万癒はカルテに書き込みながら素っ気なく答えた。
自分の目的は最高の医者になることで、今のままでは救えるものに限りがあるからそれを少しでも増やすため、ヒーローになろうとしている。
最高の医者であるために、ヒーローになる。
そのための万癒のヒーローアカデミアが始まろうとしていた。